2017/08/28

シルバー民主主義は健在である

今日の日経新聞に「忖度しすぎ?シルバー民主主義」という記事が載っている。高齢者は実は負担増を受け入れる余地がある、という内容なので、意外感にかられて興味深く読んだが、随分と能天気な内容だった。

根拠として挙げられているのは、世論調査で「増税をして社会保障を拡大する必要がある」と回答した人の割合が高齢になるほど高かったから、というものだが、高齢者は今後死ぬまでほぼ確実にネットで受取超過なのだから、増税して(その大半は自分ではなく現役世代が負担する)、社会保障を拡大する(その恩恵は当面自分が享受する)という選択が、もっとも利己的である。

もちろん記事が指摘するように増税なしで給付が拡大すれば最高だが、それには限界があることには多くの人が気づいている。それよりも、誰かがしっかり負担して給付を(当面の間は)充実してくれた方がよい。(消費税で自分の負担が多少増えることもある程度は覚悟しているだろうが)

そもそもシルバー民主主義の最大の弊害は、既得権と化した社会保障の給付を減らせないことである。増税は先送りされているとは言え、部分的には一応実現したし議論も続いてる。対して社会保障の給付カットは、ほとんど議論もされていないのが現状である。

高齢者が社会保障の拡大を最も支持し、縮小に最も反対する、という今回の調査結果は、改革の絶望的な難しさを改めて浮き彫りにしただけで、何も新しくない。

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2017/08/01

【読書】生涯投資家 村上世彰




村上氏が昭栄に対して敵対的TOBを仕掛け、一躍有名になってから、気がつけば二十年近くが経とうとしている。

今振り返ると、ライブドアがニッポン放送の買収を企図して騒動を巻き起こした2005年から堀江・村上両氏が逮捕される2006年までの、日本社会の喧騒は異常だった。「外国企業による敵対的買収」に怯えて、なぜか全く関係が無い三角合併の導入が先送りとなり、日本企業は「事前警告型」と呼ばれるポイズンピルをこぞって導入した。

本書を読んで改めて実感することは、村上氏の主張は歪んだ会社経営に切り込んだごくごく真っ当なものであり、標的にされた企業やその経営者達の中には、ほとんど横領に近いような形で会社が食い物にされた事例も稀ではなかったということだ。

資本主義社会において、資本を託された株式会社は、それを有効に活用してリターンを挙げる(付加価値を生み出し、富を増やす)べきであり、そうした機会が社内に見当たらないのであれば余剰資金を株主に還元して、資金の好循環を促すべきである。そんな当たり前の主張が、「乗っ取り屋」という誹謗にかき消され、「会社は誰のものか」というややピントのずれた論争の前にほとんど黙殺されてしまったのは、村上氏のみならず日本の経済社会にとって非常に不幸なことだったと思うが、社会というものは(特に人々の意識や価値観は)きっと一足飛びにはなかなか変わらないものなのだろう。

あれから10年を経て、日本にもコーポレート・ガバナンスの適正化を促す動きが本格的に出てきている。本書の端々には、村上氏の無念が滲んでいるが、改めて、氏が議論を喚起したことの影響は大きかったように思う。


それにしても、本質を見ない善悪のラベリングによって、重要な社会問題が極めて単純な感情論に矮小化されてしまう問題の本質は、今日も少しも変わっていない。ますます情報が溢れ、(自分も含め)人々はますます短時間でニュースを消費するようになっている。この問題には、出口が見えない。

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2017/07/12

【読書】 「小池劇場」が日本を滅ぼす 有本香



先週の都議選で、都民ファーストの会があそこまで圧勝するとは意外だった。

約1年前に旋風を巻き起こした小池都知事は、その後、問題を混ぜっかえすだけで何の成果も挙げられていない、というよりも、そもそも何をやりたいのかが一向に見えてこない。本書が冒頭で指摘するように、かつてポピュリストとも批判された小泉純一郎氏や橋下徹氏には、賛否はともかく実現したい理念や政策があった。安倍首相や、米国でポピュリストとの批判が根強いトランプ大統領にしても、彼らなりの主義主張がある。しかし小池氏には、耳触りのよいスローガンと自分をヒロインにした政局ドラマ以外に、何もないのだ。

豊洲市場問題に関して言えば、土壌や地下水には確かに環境基準を超える汚染物質が確認されるが、その水を飲むわけでもそれで魚を洗うわけでもなく、コンクリートで遮蔽されており、何の問題も無い。むしろ築地の方が、建物の老朽化、アスベスト、温度管理もなく排気ガスや風雨にさらされる構造、構内の動線が入り組んでいることによる事故等、安全上の問題が多い(土地も汚染されている)。

だから移転は議論の余地のない急務なのだが、小池氏は都知事選挙で「一度立ち止まるべき」と主張した。個人的には、これは地盤のない彼女が反自民票を取り込むための方便で、都知事になればいずれ現実的な落とし所を探るのだろうと思っていた(この頃は、それなりに信念のあるリアリストだと思っていた)。

ところが小池知事は、豊洲への移転を独断で延期した上に、これを正当化するために「盛土問題」という本来どうでもいい話を針小棒大に騒ぎ立て、都民の不安を煽って正義の味方を演じることに成功した。

築地の土壌にも汚染があることが分かると、コンクリートで覆われているから大丈夫だと言い、ではもっと頑丈に覆われた豊洲も安全ではないかと追及されると、豊洲は安全だが「安心」が無いなどとよく分からない回答をする。挙句の果てに、都議選の直前になって、「豊洲には移転するが、築地も活かす」という意味不明の折衷案のようなものを出して来た。こんないい加減な案は、姑息な選挙対策であることが明らかだったが、それが批判されることもなく、結局、共産党からの批判を抑えることにも成功し、都民ファーストは大勝してしまった。

つくづく天才的な政局センスと強運に恵まれた人だが、この1年弱の行動を見るに、小池氏には信念も東京都政への真摯な問題意識も何もなく、ただひたすら、自らの人気と権力の拡大に腐心しているようにしか見えない。

自分が正義の味方でいるためには、悪役が必要である。都議会自民党や旧勢力(石原元知事など)が悪事を働いていたという筋書きが必要だから、本来問題が無かった(あるいはあったとしても軽微だった)盛り土やら土地取得の経緯やらで問題を作り出し、都政を分断している。もちろん権力基盤を固めることも大事が、そのためには情報を歪めて都政の混乱や停滞を招くことの弊害をも一顧だにしないかのような姿勢は、あまりにも節操が無い。にも関わらず、都民ファーストの会なる何の政策理念もない政党に喝采が送られ、小池氏を批判する声がほとんど出て来ない現状は、かなり危険だと思う。「安倍一強」で言論が萎縮するという話があるが、何をやっても朝日新聞等に執拗に攻撃される安倍政権よりも、この明らかな異常事態をどのマスメディアからも批判されない小池都政の方が、はるかに不健全である。


本書は、小池氏と敵対する勢力全てに同情的な共感を向け、公平性を欠くきらいもあるが、上記のような問題を分かりやすく指摘した良書である。

都議選で第1党となったので、人気取りは一休みして政策の実現に邁進してほしいところだが、国政への色気を隠さない小池氏は、さらに人気取りに勤しむのだろう。東京の未来は暗い。

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2017/07/04

【映画】 Imitation Game




【ネタバレあり】

ナチスの暗号解読に取り組んだ数学者Alan Turingの伝記物(映画とは関係ないが、生物の体表の模様に関する業績もある)。評価が高いようなので観てみたが、やや微妙な作品だった。こうした映画に、史実と異なる脚色が入ってくるのは常だが、ストーリーの山場にどう考えても不自然過ぎるところがあり、今一つ楽しめなかった。

①映画の終盤でTuringは、頻繁に使用される特定の単語に注目することで解読の効率を上げるアイディアを、パブでのふとした会話の中から突然閃き、その晩のうちに解読に成功したように描かれているのだが、そんなのは誰でも最初に思いつきそうな発想である。実際、Turingは最初から、この使用頻度の高い用語の組み合わせに注目して、解読速度を高めることに注力したようである(映画の中で彼が独自に開発・設計・製作したことになっている機械は、実際にはTuringの赴任前に別の学者が既に一度完成させていた)。
勿論、難解な数学を理解しなくても視聴者が興奮できるドラマを用意する必要があったのはわかるが、パブで閃いて作業部屋に走るシーンを観ながら、「今更そこですか」と感じざるを得なかった。もう少し何とかならなかったものか。

②全ての暗号を解読したチームは、解読に成功したことをドイツに悟られないように、情報を抑制的に利用する必要があり、その最初の決断をTuringが下したように描かれている(その後、MI6のStewart Menziesに報告して判断を委ねることにはなるが、どの情報を利用してどれを無視するかの判断にも、Turingが関与したことになっている)。しかし、戦況の全体像を把握しているわけでもない素人集団が、国民の生死に関わる機密情報を誰にも報告せずに独自の判断で握りつぶし、数百人の国民を見殺しにするような決断をするようなことは、あまりにも現実離れしているし、その後の情報利用に関与し続けるというのも非現実だ。

いずれも、映画を盛り上げるためにありがちな演出ではあるが、ストーリーがチープになってしまった印象は否めない。

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2017/06/30

【読書】 ストーリーとしての競争戦略 楠木建




本書の出版当時、話題になっているのは目にしていたが、どうも食指が動かなかった。『ストーリーとしての競争戦略』というタイトルから、種々雑多な成功談の寄せ集めのようなものを想像し、再現性がある学びが得られるような気がしなかったのである。
しかし今回機会があって手に取ってみて、もっと早く読んでおけばよかったと後悔している。本書は、事業戦略の策定にあたって必要な思考様式を丁寧に説明した良書だった。

もちろん、戦略策定に即物的に役立つテンプレートやフレームワークを提供してくれるわけではない(そんなものは存在し得ない)のだが、どういう戦略が「筋のよい」戦略で、それはどこがなぜ優れているのか、短絡的に思いつく単発の打ち手の集合体(本書では「静止画」と表現される)はそれと何が違うのか、よい戦略を作るためにはどういうものを目指さなければならないのか、といったことが、非常によく分かる。中でも、「部分の非合理を全体の合理性に転化する」という話は、なかなか切れ味が鋭かった。

冗長だというレビューが多いが、本書の要点を簡潔にまとめてしまうと、面白くもなく、あまり役にも立たなくなってしまうだろう。短く要約すれば当たり前のことも多く、どこかで聞いたような陳腐な言葉になってしまうのだが、それをいろんな言葉で繰り返し語ることで、読み手に考えさせ、腹に落とし込ませるところに、本書の意義がある。座右に置き、時々読み返したい本である。

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