2017/10/17

【読書】The Fate of West Bill Emmott




大仰なタイトルと知人の勧めに惹かれて買ってしまったが、巷で言われていることをまとめたような本で、今ひとつオリジナリティを感じなかった。

要は自由主義・オープンソサイエティの擁護論で、自由な政治的活動を認めることが民主主義の肝だが、それが行き過ぎると利益集団の跋扈を許すことになるので、民主主義は本質的に危機に陥りやすい矛盾を内包しており、不断の見直しとそれを守るための努力が必要だ、という辺りがポイントか。

ただ、20世紀型の利益集団の話が延々と出てくるが、彼らが政治家に献金して保護規制や補助金を勝ち取っていたという話と、現代の格差問題は、相当構図が違う。前者は比較的閉ざされた国境の内側での利権の囲い込みだったのに対し、現在の格差の原因は新興国や機械との競争により雇用や賃金が伸びないことだ。前者が市場機能が損なわれることの問題であるのに対し、後者は自由市場の拡大がもたらす帰結であって、ベクトルが逆である。

リーマンショック以来槍玉に挙げられる金融機関は規制による保護など求めておらず、むしろその緩和を歓迎している。かつてのマイクロソフトのような独占企業が金融界にいるわけでもない。

右から左に流すだけで何も生み出さずに高給を稼いでいるとの批判は理解できるが、それを是正して人々の納得感を得るために必要なことは、農業における「補助金削減と規制緩和」のように自明ではない。

だから「99%」の主張は経済原理や法の支配を無視した暴論になりがちで賛同者を得られず、シュプレヒコール以上の広がりを持てない。

しかし多くの人は難しい解決策を自分で考えようとはしないので、とにかく「平等」という結果を求め、それに対して賛意も解も提供してくれないエリート達を敵視して疎外感を強める。だからこその「『西洋』の危機」だと思うのだが、本書は現代の民主主義の危機を、単なる20世紀の延長のように捉えているように見える。

読了していないので、気が向いたらまた読むかもしれないが、今はひとまずもういいかな。
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2017/10/17

【読書】 未来の年表 人口減少日本でこれから起こること 河合雅司



政府機関等の各種推計を統合することで、日本の未来を描き出した労作。引用されるのは全て公開情報で、大規模な独自調査は行っていないし複雑な理論が出てくるわけでもないので、やる気と根気さえあれば本来誰にでもできるはずだが、なかなかここまで丹念にデータを集めることはできない。

既知のことも多いが、改めていくつか重要な視点をまとめてみる

・高齢者が激増するなかで、65-74歳は既に2017年に減少に転じ、高齢者の中身が75歳以上の「後期高齢者」にシフトしていく。当然、介護・医療ニーズが増える。特に首都圏で、キャパが不足し、配偶者に先立たれた独居老人が子どもを頼って上京するようになると、更に逼迫する
・子どもをあまり産まなかった世代が要介護世代に入るため(という書き方を本書はしていないが)、介護離職が激増
・一方で地方の人口はスカスカになり、銀行やスーパーから老人ホームまで、あらゆるインフラの営業が成り立たなくなって撤退が進む。更に無人島の増加は国土防衛の危機にも繋がる
・空き家問題は、地方でも都心でも深刻化
・増えすぎた大学は閉鎖・統合が不可避

要するに、大都市では総人口はあまり減らずに高齢者の実数が増える。地方では総人口が減り、高齢者の数はあまり変わらない。
したがって、大都市では高齢者を受け入れるキャパの不足が問題となり、地方では人口減少に伴う限界集落の増加が課題となる。これらの峻別が重要だ。

本書では、上記以外にも火葬場や輸血に至るまで、多岐に亘って考察している。市場が機能する分野ではニーズを汲み取るサービスが生まれるだろうが、政府が供給をコントロールする分野では、大学に見られるように、すでに破綻の兆しが見えている。

政府は余計な介入をせず社会全体でリスクを分散することも重要だが、コンパクトシティなど政治・行政の指導力が必要な分野もある。

人間の、そして日本人の対応力は信頼しているが、問題山積み過ぎて、読後にため息が出た一冊。




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2017/10/17

【読書】 イギリスの歴史が2時間でわかる本



近々イギリスに行く予定があり、歴史の復習がてら読んでみた。なかなかよくまとまっていて分かりやすい。

イギリスの歴史というと、大英帝国の栄光のイメージが強いが、中世までは侵略と征服を受け続けて来た辺境の国だったのだと、改めて実感。

ストーンヘンジなどの石器文化で栄えたビーカ人を、紀元前2世紀にケルト人が侵略し、4-5世紀にゲルマン人の一種であるアングロ・サクソン人が侵入し、七王国を作る。アーサー王物語もその時代。
ちなみにアングロ・サクソン人に追いやられたブリトン人はフランスのブルターニュ地方に逃れたが、それと比べて面積の大きい島が「グレートブリテン」と呼ばれるようになったとのこと。


8世紀末からはノルマン人の侵攻に晒され、ついに1066年のノルマンコンクエストで、フランス系のノルマン人に征服され、フランスの文化や言葉が持ち込まれた。子どもの頃に読んだロビンフッドには、サクソン人のノルマン人に対する恨み節が随所に出ており、大人になって振り返るとなかなか興味深い。

フランスにも紐帯と領地を持つイギリス王の誕生は、その後の英仏戦争の遠因となる。獅子心王リチャード(これも文学全集にあった)の弟、失地王ジョンの時代に、フランス王と戦争をして大陸の領地を失う。戦争継続を嫌気した貴族に背かれ、マグナカルタ成立。

14世紀には、エドワード3世がフランス王家の相続の混乱に乗じて自らの王位継承を主張し、開戦(百年戦争)。

名誉革命で迎えられたオラニエ公ウィレムも英語が話せなかったことは有名。


その他にも歴史トリビアがいろいろあって面白かった。
・英国皇太子をPrince of Walesと呼ぶのは、14世紀初にエドワード1世が始めたウェールズ懐柔策の名残
・アメリカのヴァージニア植民地は、処女王エリザベス1世にちなむ
など
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2017/10/16

【読書】 ベーシック・インカム - 国家は貧困問題を解決できるか 原田泰



ブレグマンの本を読んだついでに、久しぶりに本書を読み返してみた。本書も思想や歴史的背景紙幅を割いているが、日本での導入可能性に絞って論じている分、議論は具体的で、踏み込んでいる。

本書が提言する大枠は、

・大人1人につき月額7万円(年84万)、20歳未満は1人3万円(年36万)のBIを支給する
・所得税は一律30%(したがって、大人1人なら年収280万未満は受取超過。それを超えると支払い超過)
・基礎年金、生活保護、失業保険、その他雇用創出のための諸制度は廃止する

というものである。

マクロの計算としては以下のようになる。(本書では、縦書きの本文中に桁の多い漢数字がゴチャゴチャとたくさん出てきて、非常に読みづらい。もう少し、表やフローチャートにまとめるなどの工夫はできなかったものか。)

まずBIの総額は、

・20歳以上:84万 × 1億492万人 = 88.1兆
・20歳未満:36万 × 2,260万人 = 8.1兆
計96.3兆円


これを、30%の所得税と既存の支出の削減によって賄うことを考えると、以下のようになる。

・新所得税収: 77.3兆円(雇用者報酬と自営業者の混合所得257.5兆円×30%)
・既存の所得税の減少分: -13.9兆円
・老齢基礎年金の廃止:     16.6兆円
・生活保護廃止(医療費意外): 1.9兆円
・子ども手当廃止: 1.8兆円
・雇用保険廃止: 1.5兆円
・福祉費削減: 6兆円(18.4兆円の3分の1)
・公共事業費削減:  5兆円(21兆円のうち5兆円は雇用創出のための経済対策であると仮定)
・中小企業対策費削減:       1兆円
・農林水産業費削減:        1兆円 
・地方交付税交付金削減:     1兆円
計99.2兆円



福祉費以降はだいぶ荒っぽい計算も入っているが、理屈の上では成り立ちそうには見える。

しかし、ベーシックインカムがあるとはいえ、所得税30%というのは現実的だろうか。他の諸経費を削る際の政治的抵抗はおくとしても、大多数の国民にとって負担が増えるようでは、そもそも話にならないだろう。

まずこの30%は国税のみで、地方税も社会保険料も含まれていないことに留意する必要がある。老齢基礎年金や失業保険は廃止されるので、その分の負担は浮くが、例えば医療保険は存続することが前提となっているので、その保険料は残る。

また、年収4~500万円のボリュームゾーンの所得税は現在非常に低いので、上の試算は実質的にはこの層に増税することで帳尻を合わせているのではないかという気がするが、それだと国民的合意を得るのは難しい気がする。

例えば年収400万円のサラリーマンの年間所得税は10万円にも満たないが、本書の前提だと所得税は36万円(400 x 30% - 84)となり、4倍弱もの増税である。これはさすがに厳しかろう。。まあ、専業主婦がいる世帯では追加で84万円もらえるので、受取超過になるが。

累進構造を入れることも考え得るが、本書も指摘する通り、数の少ない高所得者の負担を大幅に増やしても、ボリュームゾーンの税負担を劇的に減らすことはできない。

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2017/10/14

【読書】 隷属なき道 ルトガー ブレクマン



機会とAIによって労働が不要になる時代には、人々は、資産を保有して機械の恩恵を受ける層と機械との競争で疲弊していく層とに、ますます二極化する可能性が高い。

貧困は人間の判断力を奪い、更なる頽廃や犯罪を生み出す。愚かだから貧しいのではなく、「貧すれば(誰でも)鈍する」のだ。認知テストの実験はなかなか興味深い。

だからセーフティネットが必要となるのだが、用途を指定したりミーンズテストを課す従来の支援は、余計なbureaucracyを生み出す上に対象者に屈辱を与え、しかも効果が薄い一方、シンプルに現金を配る方法に効果があることは実証されている。

だからベーシックインカムを導入すべき、ということになる。


現実にベーシックインカムを導入するうえでは、それは計算上成り立つのか、その上でどのように民主的な合意を取り付けるのか、という二段階の問題が(大きく分ければ)想定し得るが、本書はそのいずれについても特に解を提示していない(思想の提示を主眼としているので、当然だが)。
本書で引用されている過去の実証例のほとんどは、正に「貧すれば鈍する」の状態にある最貧国の人々や生活保護受給者を対象としたものであって、先進国の恵まれた全国民を対象として、社会保障制度を廃止して現金給付に切り替えるという施策がこれまで実験された例はほとんどないということだろう。前者が成功したからと言って、後者が成功するとは限らない。

日本の場合は、特に公的年金を保険方式にしてしまったため、国民の権利意識が極めて強い。多くの国民は、自分がいくら払ったのか覚えてもいないが、とにかく政府から求められるだけ真面目に払ったのだから、自分の少し上の世代と同等くらいの年金をもらうのは当然の権利だと思っている(半分は税金で負担しているのだが)。「これから全国民にお金を配るので、あなた達の年金を減らします」と言われても納得しないだろう。

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