2009/09/13

医療保険改革に関するオバマ演説

オバマ大統領が、9月9日に議会で医療制度改革に関する演説を行った。国民皆保険をいかにして実現するか、という点に演説の大部分を充てていた。演説の中身は後に概観するが、その前にアメリカの無保険者問題をごく簡単にまとめてみる。

<無保険者問題のまとめ>
・アメリカは「国民皆保険」を実現していない唯一の先進国であり、4,600万人の無保険者が存在すると言われている。
・アメリカの医療保険は、個人が民間の保険会社と個別に契約するのが基本だが、大企業や官公庁に勤める人は、職場を通じて医療保険に加入する。個人で民間保険に加入してもよいが、雇用者である企業が保険会社と交渉した方が保険料が安くなるので、普通は雇用先が決めた保険に加入する。企業は通常、交渉を有利にするために一つの保険会社としか契約しないので(全従業員が一社と契約する方が、数の論理で交渉力が高まる)、従業員の選択肢は一社しかないことが多い。この点は日本と似ている。
・ただし、従業員に医療保険を提供することは雇用者の義務ではないので、中小企業などでは医療保険を用意していないところも多い。こうした中小企業の従業員や自営業者たちは自分で民間保険会社の医療保険に加入することになるが、それは義務ではない。大企業が保険会社とハードネゴした分のしわ寄せが交渉力の無い個人に来るので、概して条件は良くない。そのため、保険に入らない人も多い。
・一方、資力のない高齢者や低所得者、その子供には、それぞれメディケア・メディケイド・CHIPなどと呼ばれる公的保険が適用される。
・要するに、保険に加入していない人の多くは、現役世代のうち、中小企業の従業員や自営業者、フリーター、無職などである。社会の最貧層ではないが、総じて所得はあまり高くない。
・この無保険者の中には、「入りたくても入れない人」と「入りたくない人」がいる。前者は、既に病気を持っていて保険会社に加入を拒まれたり、お金が無くて高い保険料を払えない人たち。後者は主に健康的な若者で、高い保険料を払うくらいならリスクを取って無保険のままでいいや、と思っている人たちである。
・アメリカの医療費は世界で突出して高く、GDPの16%近くに上る(ちなみに日本は8%くらい)。


さて、オバマのプランである。しばらくきちんと追っていなかったので理解不足の点もあるかと思うが、大要、以下のような案が示された。(全文はこちらから)

<オバマ演説のまとめ>
・前提として、既に医療保険に加入している人に対しては、何らの変更を強いるものでもない(アメリカ人は政府に何かを強制されることを非常に嫌うため、この点を強調した)。
・その上で、保険会社に「健康状態を理由に医療保険への加入を拒んではならない」という義務を課し、「入りたくても入れない」人を無くす。
・そのために“Health Insurance Exchange”というマーケット・プレイスを作る。(この“Exchange”では保険料の上限や保険がカバーする範囲など、最低限満たすべき要件を政府が設定し、その範囲内で民間保険会社が提供する医療保険を、個人が選んで加入する。保険会社は、病歴がある人に法外な保険料を課したりすることは禁止される。)
・更に、政府は新たに医療保険を運営して、低額で安心できる医療保険を提供することで、民間保険会社に競争圧力をかける。ただし、これが不当な民業圧迫とならないよう、この保険には一切税金を投入しない。
・一方、保険に「入りたくない人」は、結局病気になったら救急病棟に駆け込んで税金を食い潰すフリーライダーとなるので、必ずどこかの保険に加入することを義務付ける。
・これらの改革を進める上で、財政赤字は一切増やさない。必要なコストは、システム全体の効率化や、現在過剰に儲けている保険会社のスリム化によって捻出する。


過去何人もの政治家が試み、全て失敗に終わった国民皆保険の実現。国民に人気がある大統領と、上下両院で民主党が多数を握るという条件がそろった今回こそ実現するか、注視していきたい。政策の中身についてはこれから調べて行こうと思うが、演説は非常に面白かったので興味ある人は見てみてください。多数に分割されていて恐縮ですが。

これ↓はPart 1で、最初の2分くらいはひたすら拍手してます。Part 6まであります。



Part 2はこちらから。続きはYoutubeでどうぞ。


ちなみにアメリカの議会演説ではスタンディングオベーションがお決まりだが、真ん前に陣取っているヒラリー等は毎回必ず立つのに対し、共和党の議員(オバマから見て左側)は立ったり立たなかったりしているのが分かる。以前書いたように、アメリカの議会には党議拘束というものが無いので、発言に賛成なら拍手、反対ならブーイング、と是々非々の反応を示す。この辺りにも議会の違いが出ていて面白い。Part3の後半では、オバマが反対派議員を批判したので、座ったままブーイングをしている議員がたくさんいる。


医療政策 | Comments(0) | Trackback(0)
 | HOME |