2017/11/02

【読書】 労働者階級の反乱 地べたから見た英国EU離脱 ブレイディみかこ



著者は英国の労働者階級の中で暮らす日本人。移民でもある自身は残留に投票したが、夫を含めたほとんどの英国籍の知人は離脱に投票したという。その社会的背景をまとめたのが、本書である。著者のように労働者階級に本当に根を張った生活者から見た英国観を日本語で読める素材は殆どないと思うので、非常に価値のある本だと思う。

本書を読んで感じるのは、英国での格差が日本から垣間見える姿よりもはるかに深刻であり、社会が完全に分断されているということだ。政治から疎外された白人労働者階級の肉声には、力がある。

本書は一貫して労働者に同情的であり、労働組合への過度な期待や、競争力の無い産業構造の温存を主張するなど経済政策の視点はだいぶ偏っている面もある(炭鉱を閉じて金を配るという政策は正しかった。水準が十分か、という問題はあるが)。他のソースにも当たりながらバランスを取るべきとは思うが、一つの視点を提供してくれた。

しかし絶望的な気持ちにもさせられるのは、これだけ労働者に寄り添った著者にも、結局、離脱によって具体的何が達成されるのか、人々が何を期待していたのかは、見えて来なかったという現実である。著者がそう総括したわけではないが、書かれているのは、結局、保守党政権が推し進めた緊縮財政策への不満であり、白人労働者の閉塞感・疎外感である。残留派が主張したEU市場へのアクセスを失うことによる経済的損失に対して、それを回避する策も受け入れる明確な覚悟もあったわけではなく、ただ、現状に不満だから何とかしてそれを変えたいという熱情に動かされたというのが、本書から見える離脱投票者の本音である。その結論だけ見ると、巷で言われている話と結局そう変わらない。

労働者の窮状は分かった。緊縮財政を推し進めたキャメロン政権は間違っていたかもしれない。しかし、それとEUの問題をごっちゃにして、国が窮乏する道を選んだことは、やはり賢明ではなかったのではないか。このやけっぱちの選択は高くつきそうだ、というのが、投票後一年長を経てなお交渉の端緒すら掴めずにいる現状を踏まえた上での、素直な読後感である。




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2017/11/01

【読書】The Rise of the Robots  Martin Ford



本書の主張も、基本的には下記のように要約できる。

AIとロボットの普及
 ↓
労働者は不要になる
 ↓
資産家(株主)はますます富み、持たざるものは失業して貧しくなる
 ↓
ベーシックインカムでみんなを支えよう



多くのanecdotesを詰め込み過ぎて、やや冗長なのと、若干無理矢理感のある例示もあるが、機械が人の仕事を奪う構図が具体的にイメージできる。

教育:
・事務スキル習得を主目的とするならMOOC等のオンライン教育で十分。トップの大学はブランドやネットワークの価値で生き残るだろうが、中下位の大学は厳しい
・採点は、記述式においても自動化される。機械は言葉の意味を理解できないので、文法・形式的なチェックしかできないし間違えることもあるが、人間よりもミスは少ないし、低レベルの作文は評価して助言することも可能

医療:
・読影などでは確実に機械化が進む。但し患者とのコミュニケーションや判断を担う医師の役割は無くならない
・しかし医療は慢性的に人材不足なので、機械との分業を前提により簡易なトレーニングで限定的な仕事をする新たなメディカルプロフェッショナルが増加すると、本書は予想する
・薬局の仕事の大半は、ラベルを見て薬を正確にピックアップして包むだけなので、Amazonの技術の単純な延長であり、大幅な機械化が可能。規制緩和が進むかが鍵

車:
・自動運転とライドシェアはセットで進む。自分で運転しなくてよいなら、車庫で放置しておくよりも必要な時に呼ぶ方が経済的・効率的。
・シェアが進めば社会全体で必要な車の台数は減る。所有しなければステータスシンボルにもならないので、高級車のマーケットは縮小に向かう。自動車メーカーとしては、破壊的イノベーションにどう対処するか、困難な選択を迫られる。
・駐車場のスペースがフリーアップされる。
・ガソリンスタンドや整備工、カー用品ショップ、中古車販売などの周辺産業もB to Cが主流になるから、街中に点在する必要は無くなり、雇用が激減する

最終章はベーシックインカムの主張で終わる。個人的には、導入できればよいと思うが、他の社会保障制度を廃止することへの抵抗が大きく、社会はそこまで行けないのではないかという気もする。

これからの雇用の受け皿は、接客などヒューマンインターフェイスの部分と、介護や医療、調理や手工業など、「手に職」系(文字通り手を使って何かをする仕事)だと思う。

その意味では、必要とされないホワイトカラー事務職予備軍を大量生産する大学を放置することは、悲惨な結果を招く。冨山氏が大学をグローバルとローカルに分け、ローカル型ではマイケルポーターより簿記を教えろといった趣旨の主張を展開したのは5年くらい前だと思うが、技術の進歩は予想を上回るスピードで進んでおり、もはやL型大学すら不要な時代が見えて来ている。





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2017/10/31

【読書】 金利と経済 翁邦雄 ①



翁氏の解説・論考は、いつもながら明快で面白い。

アベノミクスから四年近くを経て未だに物価上昇の兆しが見えない状況を踏まえ、本書は長期停滞論を紹介する。タイラー・コーエンが有名だが、レイチェルとスミスと論文を引いて、少子高齢化や不平等の拡大等によって、自然利子率が低下している可能性が指摘される。それがマイナスになる状態では、伝統的な金融政策は効かない。2013年4月に繰り出された異次元緩和を、本書は「見せ金」と表現した。単純なリフレ政策が効かないことは、黒田総裁含め日銀は分かっていたはずなので。(浜田宏一氏はどうも本気でリフレ理論を信じていたようだが。。)しかしこの見せ金は、為替と株価と不動産価格には影響を与えたが、物価や賃金の上昇には繋がらなかった。

2016年1月、追い込まれる形で日銀はマイナス金利の導入に踏み切った。日銀のマイナス金利政策の特徴は、まずその階層構造にある。

1階部分=基礎残高:直近の当座預金残高から算出された210兆円分 → 引き続き0.1%の金利がつく
2階部分=マクロ加算残高:当初40兆円(その後増やす)→ 金利ゼロ
3階部分=政策金利残高:10兆円程度に調節 → -0.1%の金利

日銀が大量の国債を買い取った結果、民間金融機関は巨額の当座預金を抱えており、そこから金利収入を得ている。これを全てマイナスにすると、金融機関の経営に与える悪影響が大き過ぎると考えられた。ただでさえ、マイナス金利は貸出金利の低下を通じて金融機関の体力を奪うので、この妥協はやむを得なかったというのが著者の評価である。

この250兆部分は動かずに日銀当座預金に死蔵されたままになるが、短期金融市場においては10兆円の政策金利残高部分の動きだけで金利が決まる。マイナス金利が適用される銀行が余裕資金を融通しようとして裁定が働くことで、金利をマイナスに誘導できるのだ。

しかしこうした政策は、いくつかの問題を内包していた。
・基礎残高に付された0.1%の金利は、市場金利から切り離されたことで、金融機関に対する単なる補助金ともいえるようなものになってしまった。
・長期国債金利が予想以上に下がって、10年金利までマイナス圏に突入してしまった。著者はここで日銀トレードによるバブルの弊害を強調している(バブル自体は、程度の差はあれど、異次元緩和の初期からすでに発生していた気もするが)
・日本はすでに長期にわたる低金利で金融機関の利鞘がかなり薄くなっていたため、一段の金利低下によって金融機関が受ける収益インパクトが、(先にマイナス金利を導入した欧州諸国と比べて)かなり大きかった

最後の点がまさに懸念されたために、日銀は三層構造を採用したわけだが、これはやはり根本的な矛盾を抱えていたように思える。
そもそも金利をマイナスまで切り下げる目的は、それによって金融機関から見た貸出等の経済的魅力を相対的に高め、日銀に死蔵された資金が市中に流れ出ることを通じてマネーサプライの拡大、ひいては物価の上昇を目指すことにあったはずである。しかし、金融機関の収益性を守るために当座預金の大部分には従来通りの金利が付される一方、長期金利は大幅に下がってしまったため、当座預金を貸し出しに回すことで生まれる利鞘は、むしろ縮小してしまった。もちろん、政策金利残高部分に限って見れば、マイナス金利のペナルティは当座預金を貸出等に回すインセンティブを生んだだろうが、その枠を超えた大幅な貸出増は、そもそも期待されていなかったということになる。

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2017/10/27

【読書】人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊  井上智洋



基本的な骨子は、

AIとロボットの普及
 ↓
労働者は不要になる
 ↓
資産家(株主)はますます富み、持たざるものは失業して貧しくなる
 ↓
ベーシックインカムでみんなを支えよう


という議論。また、中間層の失業と窮乏化が需要を減退させることが、中長期的な経済成長への足枷にもなり得ると主張し、長期のGDPを決めるのは供給側というのがマクロ経済学の常識に挑戦している(その辺は、別途読んでいるThe Rise of the Robotsと重なる)。

しかし、大部分の雇用が失われるという予測は(著者に限らないが)、本当に信憑性があるのだろうか?

人間がやり続ける仕事はクリエイティブ、マネジメント、ホスピタリティが求められるもの、というのは納得感が高い。藤野氏の二軸で言うと、右上、左上、右下に相当する。
著者はその上で、管理的、専門・技術的、サービス職に現在従事する2000万の半分の1000万人分程度しか雇用が残らないという未来を予測する。ただし著者はこれを「極端に悲観的な」シナリオと呼んでおり、最悪のケースを想定して準備しようという立場である。

著者も言うように、機械が人間との間に感情や感覚の通有性を持つことのハードルはかなり高いので、直接対人サービスの大部分が無くなるとは思えない。介護や看護、保育、教育は勿論、飲食やホテルにおいても機械化できる部分は限られるだろう。機械化が進んでも、「廻らない寿司」への需要は無くならなかったし、今後も無くなることはない。

製造業においても、全てを機械と3Dプリンターで作れるわけではない。皮革製品や衣服、陶磁器など、手間のかかる伝統的な製法でしか出せない味わいに対する需要は、高まると思われる。

雇用の大規模な縮小が明らかに進むのは、ホワイトカラー事務職、小売、輸送、工場労働くらいではなかろうか。そして生産性が上がった分、一部の金持ちにしか手が届かなかった「手の込んだ」物やサービスをみんなが欲しがるようになり、そうした業種に労働力が流れ行くというのが、より現実的な将来像ではないか。例えば家事代行サービスは、20世紀の日本では庶民が利用できるようなものではなかったと思うが、近年その需要は急激に拡大して大きな雇用を生んでいる(家電の自動化が進んだのにも関わらず、である)。

過去20年を振り返れば、情報化で社会は大きく変わった。その大きさの計り方は人によって様々だろうが、社会の仕組みが根底から覆されたわけではない。今後の数十年も、振り返れば色々新しいものが出てきたな、と思うような変化が漸進的に起こっていくという方が実感に近いのではないだろうか。



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2017/10/25

【読書】 2020年人工知能時代 僕たちの幸せな働き方 藤野貴教



息抜きに読んだ軽いタッチの本だが、直観的でなかなか面白い。

構造・非構造、論理・感情の二軸で分ける整理は、かなり納得感が高かった。松尾氏の本でも、人工知能時代に残るのは、高度な常識的判断が求められる仕事と、ヒューマンインターフェイスに関わる仕事というような趣旨が書かれていた。

機械に仕事を奪われると多くの人には収入を得る手段がなくなるからベーシックインカム、という議論は多いが、社会の受容性も含めて、そこまで行くかは疑わしい気がする。本書が提唱するようなAIとの棲み分け・協働は、2020年を超えた将来においても結構続くのかもしれない。

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