2010/04/17

「子供手当で出生率が上がるか?」という愚問

子供手当をめぐって、相変わらずポイントのずれた論議が、国会でもマスメディアでもネットでも巷でも続いている。「子供手当で出生率を上げよう」と言っている人も、「子供手当では子供は増えない」と批判している人も、どれほど不毛な議論をしているか、頭を冷やして考えてみてはどうか。

民主党の子供手当は、子供を増やすための政策ではない。そうであるはずがない。

子供を増やすことが目的であれば、これから生まれる子供に限定して手当てを支給するのが最も効果的だ。ところが現行の子供手当の大部分は、既に生まれている子供の親に行く。もう生まれてしまった子供を対象にお金を配っても、これから生まれる子供の数が増えるわけがない。

既に生まれている子供達は、お金を配ろうが配るまいが現にもうそこにいるのだから、今後の出生率には関係ない。関係ない人にまでお金を配るのは、(出生率向上が目的なのであれば、)税金のムダ遣いである。5兆円という巨額のお金を2千万人近い現在の子供の親に配るという政策は、出生率向上を目的と考えれば、費用対効果がメチャクチャ悪いに決まっているのだ*。こんなのは、議論するまでもない、自明の理である。
同じ金額のお金を、出産一時金を増やすなり不妊治療を補助するなり、これから生まれる子供に限定して使った方が出生率を上げる効果が大きいのは、当たり前の話である。「現物給付か現金給付か」とか「所得制限を入れるか」などの問題ではなく、対象者がそもそもずれているのである。もちろん、子供手当で出生数も多少は増えるだろうが、それは副次的な効果である。

では、子供手当とは一体何なのだろうか?
それは、子供を育てている人と育てていない人との間で所得を再分配する政策である。したがって、問われるべきは「なぜ子供のいない人から税金を巻き上げて、子供を育てている人に支給しなければならないのか?」という正当性である。これは分配の正義の問題である。「お金を配ったら出生率が上がるのか」とか、「2万6千円が、子供を一人産もうと思うのに十分な金額か」とかは、ポイントを全く外した愚問なのだ(まあ、副産物と分かったうえでその効果を確認することに意味が無いわけではないが)。政府や民主党が、愚問が愚問だと分からずにいちいち付き合うから、混迷が深まるのだ。

では子供を育てる人に公費を支給する根拠は何なのか?
私見によれば、それは社会保障制度のフリーライダーである子無し世帯から、その担い手たる子育て世帯に所得を移転して、負担を平準化するためである(それ以外に、あの巨額の所得移転を正当化できる根拠があるとは思えない)。その趣旨をはっきりさせるためにも、政府は子供のいない人(私もその一人である)にはきちんと負担増を求めるべきだった。また、日本に帰化しようとしない外国人は、将来に亘り(子供の代まで)日本社会を支えるというコミットメントをしていないのだから支給するべきでないし、出稼ぎ外国人が母国に残してきた子供の分を支給するなどというのは論外である。

政権交代前後、民主党議員の多くは、「子供は社会のみんなで育てるべき」といった価値観を強調していた。だから私は、ようやく正しい再分配が行われると思って多少とも期待した。しかし今のこの迷走ぶり、閣僚の発言を聞いていても、手当の目的が全く共有されていない。メディアも目的の違いを全く整理できていない。目的がごっちゃになったまま、みんななんとなく不満を持つ状態が、ずっと続いている。詰まるところは、民主党政権の統治能力の限界ということなのだろうが。


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*もちろん対象者は時間とともに入れ替わり、15-6年も経てば制度導入後に生まれた子供ばかりになるが、それまでに何十兆円も「ムダ」にすることになるし、そもそもそんな先までこの制度が存続しているかどうかもかなり怪しい。

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