2012/11/26

【読書】 国債非常事態宣言 「3年以内の暴落」へのカウントダウン 松田千恵子



著者はムーディーズのアナリストだったこともある財務・経営のコンサルタントである。日本の財政や国債をめぐる状況がバランスよく整理されていて分かりやすい。タイトルは(類書の例に漏れず)センセーショナルだが、中身はいたって真っ当な現状分析と将来予想である。

著者が指摘するように、現在日本国債の格付けがAa3/AA-(ムーディーズ/S&P)に踏み留まっているのは、格付機関が「『国には徴税権も貨幣発行権もある』のだから、いざとなったらインフレにしようが重税をかけようが、はたまた預金封鎖をしようが、いずれにしても『国内で何とかして』債務の支払いを行うだろう」と見ているからに過ぎない(p100)。格付け機関が見るのは「対外的な債務の支払い能力」であって、その過程で国民がどれほどの犠牲を払うかは焦点ではないからである。「今の高格付は、皆さん(読者=日本人)の犠牲が払われるもの、という前提で成り立っている」のである。

以前このブログでも書いたが、「国債は国内で消化されているから、日本には1,400兆円の個人金融資産があるから、大丈夫」という話は、「日本人の預貯金を没収して国債の償還に充てれば、デフォルト(=借金の踏み倒し)は免れられる」ということでしかない。これを「大丈夫」と言ってのける政治家や評論家は、国民の生活を一体何だと思っているのだろうか。

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2012/11/14

【読書】外資系金融の終わり 藤沢数希



著者のブログもそうだが、世の中を小バカにしたストレートな物言いで、小気味よく外資系金融機関の実態と将来が語られる。

外資系金融の収益の源泉は、つまるところトレーディング部門であり、やっていることはヘッジファンドと同じである。手間暇かけてフィーを稼ぐ投資銀行業務やセールスに比べて、巨額のお金を運用するトレーディングははるかに効率的に金を儲けることができる。

しかしトレーディングには、モラルハザードという抜き難い構造的欠陥がある。ハイリスク・ハイリターンは金融の基本原理だが、個々のトレーダーからすれば、大儲けすれば億万長者になれるのに対し、大損をくらっても最悪クビになるだけで、無一文になったり膨大な借金を背負わされることはない(コイントスに喩えて、“Heads I win, tails you lose”と言われたりする)。ダウンサイドはこのように限定されているので、際限なくリスクを取ってアップサイドを追求する誘引が生まれる。

この構造は基本的にヘッジファンドでも同じだが、投資銀行の場合は、リーマンの破綻で明らかになったように、大きすぎて潰せない(Too big to fail)ので、税金で救済せざるを得なくなる。こうしてバブルの時に金融界が大儲けしたことのツケが、何も知らない納税者に回されるという矛盾が生まれる。

これに対して米国のボルカールールやバーゼルの金融規制は、大きすぎて潰せない巨大投資銀行を特定して(G-SIFIs)、自己勘定取引の制限や中核的自己資本の積み増しなど様々な規制をかけようとするものだが、著者はこれを社会主義的保護主義として批判する。むしろ正しい方向は、トレーディングを禁止して分離し、利益相反を抱えるマーケットと投資銀行部門も分離し、巨大すぎる投資銀行を解体することである、と。

内部を熟知する著者この提案は、それなりに説得力がある。実際、著者も描写するように、落ち着いていてプライドの高い投資銀行部門と、派手で勢いのあるセールスと、賢くて飾り気のないトレーディングと、羊のようなバイサイド及びバックオフィスとは、全く異なる人種の人々で構成されており、ほとんど同じ会社の人とは思えない。どうせウォールがあって緊密な連携などできないのだから、各モジュールが別会社となって経営しても大した問題はないように思える。

著者はヘッジファンド設立に向けて準備を進めているとのことである。外資系投資銀行のプロップ・トレーダーという存在を自己否定しているのだから、近いうちに本当に独立するのだろう。
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2012/11/03

【読書】More Money Than God: Hedge Funds and the Making of a New Elite - Sebastian Mallaby




謎に包まれたアメリカのヘッジファンドの盛衰を活写した画期的な本であり、読み物としても非常に面白い。

今回はその中でも最もドラマティックな興隆と衰亡を辿ったLTCM(Long-Term Capital Management)についてまとめておく。

LTCMはソロモン・ブラザーズの債権トレーディング部門を躍進させたジョン・メリウェザーが、ロバート・マートン、マイロン・ショールズという2人のノーベル賞経済学者を含むアカデミアを引き込んで1994年に立ち上げたヘッジファンドである。その特色は、市場の歪みに着目し、それが解消に向かう必然的な過程で確実に儲けるという戦略にあった。

そもそもヘッジファンドの由来は、ある商品を買うのと同時に、それと連動性の高い別の商品をショート(空売り)して、マーケットリスクをヘッジすることにある。例えばフォード株がGM株よりも伸びると思えば、フォードの株を買うと同時にGMの株をショートする。そうすることで、フォードもGMも値下がりするような市場全体のリスクからプロテクトしつつ、フォード株の値上がりによるリターンを狙っていくというのが、それまでのヘッジファンドの手法であった。

しかしこの戦略は、あくまでも「フォードがGMより相対的に値上がりする」という不確実な読みが当たることに依存している。逆にフォード株が値下がりしてGM株が上がれば、ダブルで損失を被ることになるというリスクを抱えている。

これに対してLTCMが取った手法は、より低リスクで確実にリターンを挙げるものだった。例えば理論的には同じであるはずの同一年限同一クーポンの国債の間でも、新発の国債は既発債よりも取引が活発で流動性が高いため、価格が高くなる傾向があった。しかしもともと同一の経済条件が付与されている以上、その差はいつか必ず解消されるはずである。LTCMは割高な債権をショートして割安な債権を買い、あとはじっと待ってその差が解消されたところで反対売買をして利鞘を稼ぐというシンプルな取引を繰り返すことで、確実にリターンを挙げた。
市場の歪みによる価格のギャップは、通常それほど大きなものにはならないので、それが解消することで得られるリターンも微々たるものだったが、LTCMはその戦略の理論的確実性(=低リスク)を背景に極限までレバレッジを高めることで、ファンドとして極めて高いリターンを挙げることができた。通常の市場環境下であれば。

しかし市場に暴風が吹き荒れた時、LTCMの戦略は瓦解することになる。例えばLTCMは、国債金利とスワップレートが長期的に一致に向かうというポジションを取っていた。通常の市場環境下であれば、国債も銀行間取引(スワップレート)も、短期のリスクはほとんどnegligibleなので大きな差がつくことはあり得ない。ところが1998年にタイを震源とするアジア金融危機が起こり、それが韓国やロシアにまで飛び火するに至って、市場は大パニックに陥り、最も安全な資産である国債は需要が集まって暴騰(金利は急落下)する一方、スワップレートは急上昇した。資本のバッファーが薄かったLCTMはたちまち窮地に陥った。

一度こうなると、死へのスパイラルは止められない。LTCMに資金を預けていた債権者や投資家は、潰れる前に我先に金を引き出そうと殺到する。LTCMは資金を返すためには手持ちの債券や株などを売ってキャッシュを作らなければならない。このLTCM自身の売り圧力が、保有資産の価格を下げて更に損失を発生させる。それを見た債権者・投資家は更に返金要求を強める。
その上、LTCMの窮状を見た市場のハイエナ達は、LTCMが保有する資産をショートし始めた。LTCMはいずれ保有資産の叩き売りに追い込まれる。そうなれば、保有銘柄の値段は確実に下がる。下がる前に今空売りしておいて、後で買い戻せば利鞘を稼げる。しかも空売りによってLTCM保有銘柄の価格を下げること自体が、LTCMを資産の叩き売りに追い詰めることになる。こうしてLTCMが持っているものは全て(その本源的価値に関わらず)売り浴びせられた。
LTCMに救済を頼まれたゴールドマンサックスは、デュー・ディリジェンスによってLTCMの保有銘柄を正確に把握したあと、救済はせずにこれらの銘柄を空売りして、LTCMに追い討ちをかけつつリターンを貪ったと疑われている。

結局LTCMは米欧の銀行団が数百億円ずつ資金を拠出して救済され、金融実務とアカデミアにおけるトップエリートの知恵の結晶は、わずか4年でその栄光の歴史に幕を下ろすことになるのである。


なお、LTCMの興亡については、それだけを扱った類書もあるので、そちらの方がより詳しく書かれていると思われる。

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