2017/10/31

【読書】 金利と経済 翁邦雄 ①



翁氏の解説・論考は、いつもながら明快で面白い。

アベノミクスから四年近くを経て未だに物価上昇の兆しが見えない状況を踏まえ、本書は長期停滞論を紹介する。タイラー・コーエンが有名だが、レイチェルとスミスと論文を引いて、少子高齢化や不平等の拡大等によって、自然利子率が低下している可能性が指摘される。それがマイナスになる状態では、伝統的な金融政策は効かない。2013年4月に繰り出された異次元緩和を、本書は「見せ金」と表現した。単純なリフレ政策が効かないことは、黒田総裁含め日銀は分かっていたはずなので。(浜田宏一氏はどうも本気でリフレ理論を信じていたようだが。。)しかしこの見せ金は、為替と株価と不動産価格には影響を与えたが、物価や賃金の上昇には繋がらなかった。

2016年1月、追い込まれる形で日銀はマイナス金利の導入に踏み切った。日銀のマイナス金利政策の特徴は、まずその階層構造にある。

1階部分=基礎残高:直近の当座預金残高から算出された210兆円分 → 引き続き0.1%の金利がつく
2階部分=マクロ加算残高:当初40兆円(その後増やす)→ 金利ゼロ
3階部分=政策金利残高:10兆円程度に調節 → -0.1%の金利

日銀が大量の国債を買い取った結果、民間金融機関は巨額の当座預金を抱えており、そこから金利収入を得ている。これを全てマイナスにすると、金融機関の経営に与える悪影響が大き過ぎると考えられた。ただでさえ、マイナス金利は貸出金利の低下を通じて金融機関の体力を奪うので、この妥協はやむを得なかったというのが著者の評価である。

この250兆部分は動かずに日銀当座預金に死蔵されたままになるが、短期金融市場においては10兆円の政策金利残高部分の動きだけで金利が決まる。マイナス金利が適用される銀行が余裕資金を融通しようとして裁定が働くことで、金利をマイナスに誘導できるのだ。

しかしこうした政策は、いくつかの問題を内包していた。
・基礎残高に付された0.1%の金利は、市場金利から切り離されたことで、金融機関に対する単なる補助金ともいえるようなものになってしまった。
・長期国債金利が予想以上に下がって、10年金利までマイナス圏に突入してしまった。著者はここで日銀トレードによるバブルの弊害を強調している(バブル自体は、程度の差はあれど、異次元緩和の初期からすでに発生していた気もするが)
・日本はすでに長期にわたる低金利で金融機関の利鞘がかなり薄くなっていたため、一段の金利低下によって金融機関が受ける収益インパクトが、(先にマイナス金利を導入した欧州諸国と比べて)かなり大きかった

最後の点がまさに懸念されたために、日銀は三層構造を採用したわけだが、これはやはり根本的な矛盾を抱えていたように思える。
そもそも金利をマイナスまで切り下げる目的は、それによって金融機関から見た貸出等の経済的魅力を相対的に高め、日銀に死蔵された資金が市中に流れ出ることを通じてマネーサプライの拡大、ひいては物価の上昇を目指すことにあったはずである。しかし、金融機関の収益性を守るために当座預金の大部分には従来通りの金利が付される一方、長期金利は大幅に下がってしまったため、当座預金を貸し出しに回すことで生まれる利鞘は、むしろ縮小してしまった。もちろん、政策金利残高部分に限って見れば、マイナス金利のペナルティは当座預金を貸出等に回すインセンティブを生んだだろうが、その枠を超えた大幅な貸出増は、そもそも期待されていなかったということになる。

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2017/10/31

質問時間配分の変更は、さすがに与党の傲慢が過ぎる

自民党が、国会での質問時間を議席数に応じて配分する案を検討していると報じられている。「仕事をしたい(地元有権者にアピールしたい)」という理由でこうした要望を出したとされる自民党の三回生議員達は、議院内閣制というものを理解しているのだろうか。

政府と議会多数派が一体となって政治を担う議院内閣制における議会では、野党による監視機能が極めて重要である。英国議会のQuestion Timeでも、質問の優先権は野党にある。プラカードを持って絶叫したり、下らないモリ・カケ問題を延々取り上げてきた野党がその役割を充分に果たして来たとは思わないが、だからといって質問時間を与党に寄せれば、国会は太鼓持ちと茶番の場になり、政治は巨大与党の独裁となってしまう。権力への懐疑と自制は、正に自民党が標榜する保守の伝統ではないのか。

安倍政権のやることはなんでも批判する朝日新聞もどうかと思うが、こんな暴挙にまで共感を示す産経の偏向も酷い。


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2017/10/27

【読書】人工知能と経済の未来 2030年雇用大崩壊  井上智洋



基本的な骨子は、

AIとロボットの普及
 ↓
労働者は不要になる
 ↓
資産家(株主)はますます富み、持たざるものは失業して貧しくなる
 ↓
ベーシックインカムでみんなを支えよう


という議論。また、中間層の失業と窮乏化が需要を減退させることが、中長期的な経済成長への足枷にもなり得ると主張し、長期のGDPを決めるのは供給側というのがマクロ経済学の常識に挑戦している(その辺は、別途読んでいるThe Rise of the Robotsと重なる)。

しかし、大部分の雇用が失われるという予測は(著者に限らないが)、本当に信憑性があるのだろうか?

人間がやり続ける仕事はクリエイティブ、マネジメント、ホスピタリティが求められるもの、というのは納得感が高い。藤野氏の二軸で言うと、右上、左上、右下に相当する。
著者はその上で、管理的、専門・技術的、サービス職に現在従事する2000万の半分の1000万人分程度しか雇用が残らないという未来を予測する。ただし著者はこれを「極端に悲観的な」シナリオと呼んでおり、最悪のケースを想定して準備しようという立場である。

著者も言うように、機械が人間との間に感情や感覚の通有性を持つことのハードルはかなり高いので、直接対人サービスの大部分が無くなるとは思えない。介護や看護、保育、教育は勿論、飲食やホテルにおいても機械化できる部分は限られるだろう。機械化が進んでも、「廻らない寿司」への需要は無くならなかったし、今後も無くなることはない。

製造業においても、全てを機械と3Dプリンターで作れるわけではない。皮革製品や衣服、陶磁器など、手間のかかる伝統的な製法でしか出せない味わいに対する需要は、高まると思われる。

雇用の大規模な縮小が明らかに進むのは、ホワイトカラー事務職、小売、輸送、工場労働くらいではなかろうか。そして生産性が上がった分、一部の金持ちにしか手が届かなかった「手の込んだ」物やサービスをみんなが欲しがるようになり、そうした業種に労働力が流れ行くというのが、より現実的な将来像ではないか。例えば家事代行サービスは、20世紀の日本では庶民が利用できるようなものではなかったと思うが、近年その需要は急激に拡大して大きな雇用を生んでいる(家電の自動化が進んだのにも関わらず、である)。

過去20年を振り返れば、情報化で社会は大きく変わった。その大きさの計り方は人によって様々だろうが、社会の仕組みが根底から覆されたわけではない。今後の数十年も、振り返れば色々新しいものが出てきたな、と思うような変化が漸進的に起こっていくという方が実感に近いのではないだろうか。



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2017/10/25

【読書】 2020年人工知能時代 僕たちの幸せな働き方 藤野貴教



息抜きに読んだ軽いタッチの本だが、直観的でなかなか面白い。

構造・非構造、論理・感情の二軸で分ける整理は、かなり納得感が高かった。松尾氏の本でも、人工知能時代に残るのは、高度な常識的判断が求められる仕事と、ヒューマンインターフェイスに関わる仕事というような趣旨が書かれていた。

機械に仕事を奪われると多くの人には収入を得る手段がなくなるからベーシックインカム、という議論は多いが、社会の受容性も含めて、そこまで行くかは疑わしい気がする。本書が提唱するようなAIとの棲み分け・協働は、2020年を超えた将来においても結構続くのかもしれない。

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2017/10/25

【読書】 人工知能は人間を超えるか 松尾豊




類書に比べると、人工知能の発展の歴史を理論的な側面も含めて深掘りしており、説明も分かりやすい。さすが第一人者。

2年以上前の本なので、その後の経緯と比べても興味深い。

本書が書かれた2015年初頭時点では、囲碁でAIが人間に勝つのは当分先だろうというのが、著者も含めた大方の予想だったが、2016年3月にアルファ碁がトップ棋士のイ・セドルを4勝1敗と圧倒し、2017年5月には世界最強とされる柯潔に三連勝した。
最新のアルファ碁は、もはや人間が作った定石にも依拠することなく、ルールだけを与えられた素人の状態から機械同士の対戦を積み重ねて成長し、以前イ・セドルを圧倒した時のバージョンに100戦全勝したという。

他方、東大合格を目指していた東ロボくんは、2016年11月に、短期間での達成を断念して開発を中断した。文脈理解や常識的判断はできないため、国語や英語はもちろん、得意教科である数学においても文章題では苦戦したようだ。

この二つの出来事は、象徴的なように思える。囲碁のように正解が明確に定義されれば、圧倒的な計算力を活かしてモンテカルロなどの力業で解いてしまうが、言語の意味を理解できない機械ができることには限界がある。ただし、最高のクオリティを求めずにそこそこのものを安価に作りまくることは、アルゴリズムでも可能。

なお松尾氏は、シンギュラリティに否定的な見解を示している。機械が人間の手を離れて自律的に発展するためには、「生命」や淘汰圧のようなメカニズムが必要だというのが理由のようだが、なぜそれを機械に基本的な動機をプログラムすることで植え付けられないのかは、よく分からなかった。


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2017/10/20

政局雑感

希望の党は、サンドバッグ状態になってしまった。日本人(あるいは日本のマスメディア)は、かつて不遜に振舞っていた人が叩かれて弱っていくのを見るのが大好きだ。ここ一週間ほどの小池叩きは、猪瀬氏や舛添氏へのバッシングショーによく似ている。

「排除」発言が転換点となったことは間違いないだろうが、うっかり口を滑らせたというよりは、根本的な戦略において小池氏や細野氏が欲張りすぎたのだと思う。彼女たちは、希望の党がそこそこ勝つことを前提に、選挙後の党内主導権を集中することを目指して、あまりにも多くの実力者を排除しようとした。それを露骨に示した細野氏の「三権の長経験者はご遠慮いただく」発言は、「排除」と同等以上に大きな失敗だったように思う。(2011年、史上最年少の首相になれたのに見送った細野氏には、チャンスは一度きり、という思いが強いのかもしれないが、自民党では、安倍首相は二回総理をやっているし、首相経験者である麻生氏や宮澤氏が閣僚として内閣を支えた例もある。首相経験者だからいけない、という基準の意味は、結局よく分からない。)

都知事を投げ出すことへの批判、後任知事が敵対勢力から出るリスクも避け、終盤では自民党傍流との連携も匂わせるなど、首班指名で迷走したことも、全てを取ろうとして自滅した結果だろう。対する立民党の分かりやすさを際立たせてしまっている。

(追記)

結局、立憲民主党と希望の党は明暗を分けた。希望の党が自滅した結果でもあるが、今の日本では、左派的「リベラル」の支持層は結構根強いのだろう。非現実的な安保政策を取らないと自民党との違いを打ち出せないのだとすると、日本には二大政党制は当分訪れないのだろう。

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2017/10/17

【読書】The Fate of West Bill Emmott




大仰なタイトルと知人の勧めに惹かれて買ってしまったが、巷で言われていることをまとめたような本で、今ひとつオリジナリティを感じなかった。

要は自由主義・オープンソサイエティの擁護論で、自由な政治的活動を認めることが民主主義の肝だが、それが行き過ぎると利益集団の跋扈を許すことになるので、民主主義は本質的に危機に陥りやすい矛盾を内包しており、不断の見直しとそれを守るための努力が必要だ、という辺りがポイントか。

ただ、20世紀型の利益集団の話が延々と出てくるが、彼らが政治家に献金して保護規制や補助金を勝ち取っていたという話と、現代の格差問題は、相当構図が違う。前者は比較的閉ざされた国境の内側での利権の囲い込みだったのに対し、現在の格差の原因は新興国や機械との競争により雇用や賃金が伸びないことだ。前者が市場機能が損なわれることの問題であるのに対し、後者は自由市場の拡大がもたらす帰結であって、ベクトルが逆である。

リーマンショック以来槍玉に挙げられる金融機関は規制による保護など求めておらず、むしろその緩和を歓迎している。かつてのマイクロソフトのような独占企業が金融界にいるわけでもない。

右から左に流すだけで何も生み出さずに高給を稼いでいるとの批判は理解できるが、それを是正して人々の納得感を得るために必要なことは、農業における「補助金削減と規制緩和」のように自明ではない。

だから「99%」の主張は経済原理や法の支配を無視した暴論になりがちで賛同者を得られず、シュプレヒコール以上の広がりを持てない。

しかし多くの人は難しい解決策を自分で考えようとはしないので、とにかく「平等」という結果を求め、それに対して賛意も解も提供してくれないエリート達を敵視して疎外感を強める。だからこその「『西洋』の危機」だと思うのだが、本書は現代の民主主義の危機を、単なる20世紀の延長のように捉えているように見える。

読了していないので、気が向いたらまた読むかもしれないが、今はひとまずもういいかな。
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2017/10/17

【読書】 未来の年表 人口減少日本でこれから起こること 河合雅司



政府機関等の各種推計を統合することで、日本の未来を描き出した労作。引用されるのは全て公開情報で、大規模な独自調査は行っていないし複雑な理論が出てくるわけでもないので、やる気と根気さえあれば本来誰にでもできるはずだが、なかなかここまで丹念にデータを集めることはできない。

既知のことも多いが、改めていくつか重要な視点をまとめてみる

・高齢者が激増するなかで、65-74歳は既に2017年に減少に転じ、高齢者の中身が75歳以上の「後期高齢者」にシフトしていく。当然、介護・医療ニーズが増える。特に首都圏で、キャパが不足し、配偶者に先立たれた独居老人が子どもを頼って上京するようになると、更に逼迫する
・子どもをあまり産まなかった世代が要介護世代に入るため(という書き方を本書はしていないが)、介護離職が激増
・一方で地方の人口はスカスカになり、銀行やスーパーから老人ホームまで、あらゆるインフラの営業が成り立たなくなって撤退が進む。更に無人島の増加は国土防衛の危機にも繋がる
・空き家問題は、地方でも都心でも深刻化
・増えすぎた大学は閉鎖・統合が不可避

要するに、大都市では総人口はあまり減らずに高齢者の実数が増える。地方では総人口が減り、高齢者の数はあまり変わらない。
したがって、大都市では高齢者を受け入れるキャパの不足が問題となり、地方では人口減少に伴う限界集落の増加が課題となる。これらの峻別が重要だ。

本書では、上記以外にも火葬場や輸血に至るまで、多岐に亘って考察している。市場が機能する分野ではニーズを汲み取るサービスが生まれるだろうが、政府が供給をコントロールする分野では、大学に見られるように、すでに破綻の兆しが見えている。

政府は余計な介入をせず社会全体でリスクを分散することも重要だが、コンパクトシティなど政治・行政の指導力が必要な分野もある。

人間の、そして日本人の対応力は信頼しているが、問題山積み過ぎて、読後にため息が出た一冊。




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2017/10/17

【読書】 イギリスの歴史が2時間でわかる本



近々イギリスに行く予定があり、歴史の復習がてら読んでみた。なかなかよくまとまっていて分かりやすい。

イギリスの歴史というと、大英帝国の栄光のイメージが強いが、中世までは侵略と征服を受け続けて来た辺境の国だったのだと、改めて実感。

ストーンヘンジなどの石器文化で栄えたビーカ人を、紀元前2世紀にケルト人が侵略し、4-5世紀にゲルマン人の一種であるアングロ・サクソン人が侵入し、七王国を作る。アーサー王物語もその時代。
ちなみにアングロ・サクソン人に追いやられたブリトン人はフランスのブルターニュ地方に逃れたが、それと比べて面積の大きい島が「グレートブリテン」と呼ばれるようになったとのこと。


8世紀末からはノルマン人の侵攻に晒され、ついに1066年のノルマンコンクエストで、フランス系のノルマン人に征服され、フランスの文化や言葉が持ち込まれた。子どもの頃に読んだロビンフッドには、サクソン人のノルマン人に対する恨み節が随所に出ており、大人になって振り返るとなかなか興味深い。

フランスにも紐帯と領地を持つイギリス王の誕生は、その後の英仏戦争の遠因となる。獅子心王リチャード(これも文学全集にあった)の弟、失地王ジョンの時代に、フランス王と戦争をして大陸の領地を失う。戦争継続を嫌気した貴族に背かれ、マグナカルタ成立。

14世紀には、エドワード3世がフランス王家の相続の混乱に乗じて自らの王位継承を主張し、開戦(百年戦争)。

名誉革命で迎えられたオラニエ公ウィレムも英語が話せなかったことは有名。


その他にも歴史トリビアがいろいろあって面白かった。
・英国皇太子をPrince of Walesと呼ぶのは、14世紀初にエドワード1世が始めたウェールズ懐柔策の名残
・アメリカのヴァージニア植民地は、処女王エリザベス1世にちなむ
など
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2017/10/16

【読書】 ベーシック・インカム - 国家は貧困問題を解決できるか 原田泰



ブレグマンの本を読んだついでに、久しぶりに本書を読み返してみた。本書も思想や歴史的背景紙幅を割いているが、日本での導入可能性に絞って論じている分、議論は具体的で、踏み込んでいる。

本書が提言する大枠は、

・大人1人につき月額7万円(年84万)、20歳未満は1人3万円(年36万)のBIを支給する
・所得税は一律30%(したがって、大人1人なら年収280万未満は受取超過。それを超えると支払い超過)
・基礎年金、生活保護、失業保険、その他雇用創出のための諸制度は廃止する

というものである。

マクロの計算としては以下のようになる。(本書では、縦書きの本文中に桁の多い漢数字がゴチャゴチャとたくさん出てきて、非常に読みづらい。もう少し、表やフローチャートにまとめるなどの工夫はできなかったものか。)

まずBIの総額は、

・20歳以上:84万 × 1億492万人 = 88.1兆
・20歳未満:36万 × 2,260万人 = 8.1兆
計96.3兆円


これを、30%の所得税と既存の支出の削減によって賄うことを考えると、以下のようになる。

・新所得税収: 77.3兆円(雇用者報酬と自営業者の混合所得257.5兆円×30%)
・既存の所得税の減少分: -13.9兆円
・老齢基礎年金の廃止:     16.6兆円
・生活保護廃止(医療費意外): 1.9兆円
・子ども手当廃止: 1.8兆円
・雇用保険廃止: 1.5兆円
・福祉費削減: 6兆円(18.4兆円の3分の1)
・公共事業費削減:  5兆円(21兆円のうち5兆円は雇用創出のための経済対策であると仮定)
・中小企業対策費削減:       1兆円
・農林水産業費削減:        1兆円 
・地方交付税交付金削減:     1兆円
計99.2兆円



福祉費以降はだいぶ荒っぽい計算も入っているが、理屈の上では成り立ちそうには見える。

しかし、ベーシックインカムがあるとはいえ、所得税30%というのは現実的だろうか。他の諸経費を削る際の政治的抵抗はおくとしても、大多数の国民にとって負担が増えるようでは、そもそも話にならないだろう。

まずこの30%は国税のみで、地方税も社会保険料も含まれていないことに留意する必要がある。老齢基礎年金や失業保険は廃止されるので、その分の負担は浮くが、例えば医療保険は存続することが前提となっているので、その保険料は残る。

また、年収4~500万円のボリュームゾーンの所得税は現在非常に低いので、上の試算は実質的にはこの層に増税することで帳尻を合わせているのではないかという気がするが、それだと国民的合意を得るのは難しい気がする。

例えば年収400万円のサラリーマンの年間所得税は10万円にも満たないが、本書の前提だと所得税は36万円(400 x 30% - 84)となり、4倍弱もの増税である。これはさすがに厳しかろう。。まあ、専業主婦がいる世帯では追加で84万円もらえるので、受取超過になるが。

累進構造を入れることも考え得るが、本書も指摘する通り、数の少ない高所得者の負担を大幅に増やしても、ボリュームゾーンの税負担を劇的に減らすことはできない。

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2017/10/14

【読書】 隷属なき道 ルトガー ブレクマン



機会とAIによって労働が不要になる時代には、人々は、資産を保有して機械の恩恵を受ける層と機械との競争で疲弊していく層とに、ますます二極化する可能性が高い。

貧困は人間の判断力を奪い、更なる頽廃や犯罪を生み出す。愚かだから貧しいのではなく、「貧すれば(誰でも)鈍する」のだ。認知テストの実験はなかなか興味深い。

だからセーフティネットが必要となるのだが、用途を指定したりミーンズテストを課す従来の支援は、余計なbureaucracyを生み出す上に対象者に屈辱を与え、しかも効果が薄い一方、シンプルに現金を配る方法に効果があることは実証されている。

だからベーシックインカムを導入すべき、ということになる。


現実にベーシックインカムを導入するうえでは、それは計算上成り立つのか、その上でどのように民主的な合意を取り付けるのか、という二段階の問題が(大きく分ければ)想定し得るが、本書はそのいずれについても特に解を提示していない(思想の提示を主眼としているので、当然だが)。
本書で引用されている過去の実証例のほとんどは、正に「貧すれば鈍する」の状態にある最貧国の人々や生活保護受給者を対象としたものであって、先進国の恵まれた全国民を対象として、社会保障制度を廃止して現金給付に切り替えるという施策がこれまで実験された例はほとんどないということだろう。前者が成功したからと言って、後者が成功するとは限らない。

日本の場合は、特に公的年金を保険方式にしてしまったため、国民の権利意識が極めて強い。多くの国民は、自分がいくら払ったのか覚えてもいないが、とにかく政府から求められるだけ真面目に払ったのだから、自分の少し上の世代と同等くらいの年金をもらうのは当然の権利だと思っている(半分は税金で負担しているのだが)。「これから全国民にお金を配るので、あなた達の年金を減らします」と言われても納得しないだろう。

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2017/10/13

【読書】誰が日本の労働力を支えるのか 野村総研



少子高齢化で働き手が足りなくなるという懸念と、機械に仕事を奪われて失業者が溢れるというホラーストーリー。この一見矛盾する未来像をどう理解すればよいのか、という問に取り組んだのかと思ったのだが、結論を提示することなく終わってしまった。

せっかく、膨大な職種の機械代替確率を出したのだから、これらの職業に従事する人が将来どのくらい必要で、そのうち何割は機械が代替するから、労働力は足りるとか足りないとか、粗くてもよいから結論を提示してくれれば、provocativeになったと思うのだが(まあ、すごく大変だとは思うけど)。

物流やヘルスケアのシナリオ分けも、やや納得感にかける。

幹線道路は自動運転になると言っておきながら、なぜ配送ドライバーの不足は解消されないのか。人間の移動に合わせて自宅以外にも荷物をきめ細かく配送し直していたらそっちの方が手間がかかるだろう?(ただ、中国などで一般化している、私用の配達を会社で受け取る習慣は合理的だと思う)

医療については、手術ロボットはもう一般化しつつあるし、画像診断などにAIが活用されるようになるのは、必然であり、選択の問題ではない。(AIの診断が人間の医師の理解を完全に超えたブラックボックス化した場合、機械に運命を委ねるか、という問題は出てくるが。今でもある治療法が効くかどうかは賭けみたいなところがあるので、患者が選ぶしかないとは思うが)
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2017/10/12

【読書】The 100 Year Life(ライフシフト)Lynda Gratton, Andrew Scott



100年生きることを前提にすると、「がむしゃらに1つの仕事を続けて60なり70なりで引退してあとは年金暮らし」という人生設計が成り立たなくなるので、働いたり学んだり休んだり仕事替えてまた働いたりしながら、長い人生を楽しみましょう、という話。

最初に就職する頃からそんなような事を考えて実践してきた者(100歳まで生きると思っていたわけではないし、成功しているかは別として)にとっては、それほど新しい発見はなかった。ちきりんが数年前に提唱した「人生を二回生きる」というコンセプトに近い。



多くの人が本書の考えを実践するようになれば未来は明るいのだが、なかなかそうは行かないだろう。

世の中には、「真面目に頑張れば豊かな生活を将来にわたって保証されて当然」と固く思い込んでいる人がものすごく多い。少子化が進んだり成長が鈍化したりグローバルな競争が激化して目算が狂っても、それは誰か他の人(政府や企業)の責任であって、とにかく自分達の権利だけは確保されて当たり前だと思っている(自覚はないだろうが)。数十年後の寿命や経済•社会構造を予測することなど、官僚にも政治家にも学者にも経営者にも、誰にも不可能なのに。まあ、政府自身ができもしない約束をしてこうした夢をバラまいて来たわけだが。

この不確実な世の中では、本書が描くように、自分自身で将来を予測して、時にはリスクを取ったり自己投資しながら、自分で主体的に生きていくしかない。もちろん最低限の保障は必要だが、比較的恵まれた層は、多少目算が狂っても自分に先見性がなかったのだと諦める心構えが必要だ。(リスクを外部に押し付けるには、余計に金を払う必要があるというのは金融の常識である。)これまでの無リスク保障は戦後の一時期にのみ成立し得た僥倖であり、恵まれ過ぎていたのだと自覚してその呪縛から逃れることが、自由な人生を生きる第一歩となる。
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2017/10/12

【読書】 決定版AI 人工知能



ぼんやりと理解していたAIの輪郭をはっきりさせてくれた一冊。

AIは、大量のデータを分析して異常値を見つけ出したり定型的なアウトプットを出すことは得意。他方、文脈や感情を理解したり、ゲームのパラダイムが変わるような環境変化に適応することは苦手。また、そもそもデータ化されていない情報を活用することはできない。

「生き字引」の存在意義は薄れるが、最初的に意思決定するのは人間なので、その感情や言葉の裏にある意図を理解してサポートするような仕事の価値は高まるだろう。

また、結果(の成否)が明確な事象(投資の勝ち負け、病気の発症、顧客による購買など)は、ディープラーニングで精度をどこまでも高められるだろうが、そもそも成否が明確に定義できないことや、文脈依存性が高すぎて再現性がない(毎回個別の判断が求められる)分野でAIが人間を凌駕できるとは、今のところ想像できない気がする。

「20XX年にシンギュラリティが到来する」などの予言を、その含意を明らかにすることなく引用する人が多いが、人と機械は別物だから得意分野が異なる訳で、AIがあらゆる知的能力において人間を凌駕するわけではない。
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2017/10/11

【読書】 孫正義300年王国への野望 杉本貴司





この種のドキュメンタリーは色々読んだが(ソフトバンクに関しては読んだことがなかったが)、この本は掛け値無しに最高に面白かった。

特に創業期の苦労話、孫氏が慢性肝炎に侵されて余命5年程度と宣告されていたこと、その闘病中に会社を任せた社長(大森康彦氏)と対立して彼を追い出したこと、「天才」西和彦との抗争、Yahoo BBの立ち上げ期の奮闘など、非常に興味深く読んだ。

孫氏は常に毀誉褒貶の激しい人だったが、震災後に再生エネの振興策の旗を振った際に「政商」と盛んに喧伝されたのを最後に、あまり攻撃されなくなった気がする(あの頃彼が推し進めた太陽光普及策は、今でもどうかと思うが)。批判を封じ込めたのは、万年3位と思われた携帯電話事業の躍進、SprintやARMの買収、当選直後のトランプとの会談、サウジとの10兆円ファンドなど、常人には思いもつかない発想を現実のものとしてきた圧倒的な実績だろう。かつて彼を批判していた人たちからすると、「随分遠くに行ってしまったなぁ」という感覚なのではないだろうか。相手を理解できて初めて批判ができるが、何を考え、誰と交流しているのかも想像付かなくなってしまうと、もはや敵やライバルではなく、雲上人になってしまう。

そんな孫氏にも、人間味あふれる側面を知ることができるのも、本書のよいところだ。1人の人間に、裸一貫からあそこまで大きなことができるのか、と慨嘆してしまう。

そしてその秘訣は、(当たり前だが)人を巻き込んで動員する力にあるのだと、改めて実感。大事を成し遂げる人は、須らく人たらしだ。 それは彼の天性の愛嬌によるところもあるのだろうが、やはり真っ直ぐなビジョンに説得力があったことが全ての起点だったのだろう。

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