2014/04/05

【読書】 フェルマーの最終定理 サイモン・シン




有名なピタゴラスの定理とは、zを長辺とする直角三角形の3辺の間にx2 + y2 = z2の関係が成り立つというもので、この式を満たす整数解の組み合わせが無限に存在することは、既にエウクレイデス(ユークリッド)の時代(紀元前3世紀頃)には証明されていた。しかし、上の式の各項の累乗を一つだけ増やした
x3 + y3 = z3
には整数解が存在しない。これを更に一般化して、
xn + yn = zn (n>2)
には整数解が存在しない、という定理を17世紀のフランスの数学者、ピエール・ド・フェルマーが主張したのである。困ったことに彼はその定理を発表したわけではなく、「私はこの命題の真に驚くべき証明を持っているが、余白が狭すぎるのでここに記すことはできない」との謎めいた走り書きを残して死んでしまった。この挑戦的なメモは彼の死後に、その息子によって発見されたのである。フェルマーは他にも多数の定理を遺し、それらは順次後代の数学者によって証明されて来たが、上記の定理だけは幾人もの数学者の挑戦を跳ね除けて3世紀以上も未解決のまま残った。「フェルマーの“最終”定理」と呼ばれる所以である。

本書は、この定理を最終的に証明したアンドリュー・ワイルズを始め、この難問を解く基礎を築いた数人の数学者の人生と共に、数論の歴史を振り返ったものである。数学者ですら1割程度しか理解できないというワイルズの証明を詳細に辿ることはできないが、前半に登場する数々の理論は、完全な証明を追求する数論という世界の美しさを再発見するに十分だし、天才達による数の世界への挑戦はロマンに満ちている。数という、人間の頭が発見した抽象的な概念の世界が、美しい完全性を保ち、そして自然界を司っているという事実に、改めて感嘆する。

ワイルズは、20世紀までに発展した数学の技術を総動員して、この問題を証明した。しかし17世紀に生きたフェルマーが、同じアプローチでこの定理を証明したことは有り得ない。フェルマーは、小さなミスを犯して不完全な証明を完全なものと思い込んだのか、それとも本当に「真に驚くべき」証明を17世紀に存在した数学の道具立てを駆使して行ったのか、定理が証明された今なお、謎は続いている。

子供の頃にこの問題に出会って以来心を奪われ、それを解くことに8年の歳月をささげたワイルズの言葉は、実に味わい深い。

「大人になってからも子供のときからの夢を追い続けることができたのは、非常に恵まれていたと思います。これがめったにない幸運だということはわかっています。しかし人は誰しも、自分にとって大きな何かに本気で取り組むことができれば、想像を絶する収穫を手にすることができるのではないでしょうか。この問題を解いてしまったことで喪失感はありますが、それと同時に大きな解放感を味わってもいるのです。8年間というもの、私の頭はこの問題のことでいっぱいでした―文字通り朝から晩まで、このことばかり考えていましたから。8年というのは、一つのことを考えるには長い時間です。しかし、長きにわたった波乱の旅もこれで終わりました。いまは穏やかな気持ちです。」



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