2015/04/22

HEYAZINEという破壊的イノベーション

東京23区内の不動産仲介手数料が全て無料と謳う不動産仲介ベンチャーが現れた。その名もヘヤジン
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手数料無料を謳う仲介業者は他にもあり、いくつか覗いてみたが、ヘヤジンほど体系的に整理されたサービスを展開している会社は存在しないように思う。

実際に試してみて感じたが、ヘヤジンは典型的な「破壊的イノベーション」である。
クリステンセンが提唱した「破壊的イノベーション」の特徴は、従来型の製品やサービスに比べて性能は劣るがシンプルで低価格なことであり、まずはそのクオリティでも十分満足できるローエンドの顧客層を取り込む。そして徐々に品質・性能を高めて上位顧客を侵食し、ついには市場を席巻するのである。

ヘヤジンは、これまでの不動産仲介業で常識だった対面型の営業を省き、物件検索、内見同行、契約業務とで分業体制を敷くことで人件費を抑制し、手数料0を実現した。収入源は貸主側からの広告料のみであるが、これは全ての物件に出るわけではないので場合によってはヘヤジンの持ち出しになってしまう。それでも「全物件手数料0」を謳うことで集まった人を効率的にさばくことにより、全体として収益を挙げていくというモデルである※。ウェブサイトは、物件の検索は勿論、入居状態の確認や内見申込みまでを簡単に行えるようにうまくデザインされている。

※さすがにこれでは成り立たなかったようで、貸主から広告料が出ない物件に関しては一律3万円の仲介手数料を取ることに変更されるようであるが、それでも格安であることには違いない。

しかし私は結局、今回の部屋探しでヘヤジンを利用することはなかった。
詳細は割愛するが、借主である自分の側に部屋の利用や契約形態に外せない条件があり、それらを貸主側とタイミングを見ながらうまく交渉をする必要があったのだが、分業体制を敷いているヘヤジンにはそうしたきめ細かなフォローを望めそうになかった。また、ヘヤジンには「内見に行ける物件数は3件まで」という制約があり、それも障害となりそうだった。よって、手数料はかかるが他の業者さんのお世話になることにしたのだ。

ちなみにこの「3件まで」というのも、ヘヤジンモデルのポイントの一つである。仲介業者から見て一番困るのは、いくつもの内見に付き合わせた上で結局いつまでも決めない客だろうが、ヘヤジンはそうした顧客が自ら敬遠してくれるような仕組みを作っているのである。というわけで、今回の私のようにややこしい条件を抱えた借主は、おそらく当面は従来型の仲介業者に頼ることになるだろう。

他方、もしも自分が(最初に東京で一人暮らしを始めたときのように)明確で分かりやすい条件を持っており、細部にはこだわらないから短期間で部屋を決めたいと思っていたら、ヘヤジンはよい選択だと思う(3件はちょっと少ない気がするが)。こうした人にとって、店舗に足を運んで物件紹介を受けながら相談に乗ってもらうことは、時間と費用の無駄でしかない。シンプルで低価格なサービスの方がよいに決まっている。

こうした顧客はどちらかと言うと単価が低いだろうから、従来型の仲介業者から見ると奪われても最初はさほど痛くないのかもしれない。しかし時がたてばヘヤジンもノウハウを蓄積してサービスの質が向上するだろうし、市場の構造も変わるだろう。
例えば今は室内の写真をネット上に掲載していない物件が相応にあるため、実際に部屋を見ないと内装や眺望が全く分からないことも多いが、ウェブでのスクリーニングが主流になり、写真を掲載しない物件は「どうせ魅力的じゃないのだろう」と内見リストにすら入れてもらえなくなれば、貸主も豊富な写真を掲載せざるを得なくなる。そうなればウェブスクリーニングの効率は格段に上がり、内装などにこだわる人でも実際に内見するのは3件で十分、ということになるかもしれない。こうしてヘヤジンは、徐々に単価の高い顧客層を侵食していくことになる。

しかしこの発想をさらに突き詰めると、そもそも(ヘヤジンを含む)仲介不動産という業態自体の存在意義が掘り崩されていく。貸主と直接つながっている不動産管理会社が十分な情報を開示し、それを借主がウェブ上でスクリーニングして絞り込むことが可能になれば、管理会社が直接借主を募集するところまであと一歩である。SuumoやHome’sがあれば、仲介業者は不要、というケースも出てくるのではないか。
もちろん、借主が自分で複数の管理会社に連絡することや、管理会社が不動産の素人である借主と直接交渉することは、双方にとって手間だし、契約周りで借主側を代表するプロがいた方が安心ということはあるので、仲介業が無くなることはないだろうが、そこにどれだけの付加価値が残るだろうか。

以上がクリステンセンの理論を当てはめて見通してみた、日本の不動産仲介産業の未来だが、さて数年後はどのような姿になっているだろうか。

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