2015/04/09

雪国まいたけのTOBはインサイダー取引なのか

雪国まいたけに対するベインキャピタルのTOBが本日完了したようである。ひと月半ほど前から株式市場の一部を賑わせている本件についての雑感。

ここに至る経緯はこのブログに詳しいが、要するに創業家の大平元社長等と外部から連れて来られた経営陣とが対立し、新経営陣が創業家を追い出すために銀行とファンドと手を組んだ、というのが背景である。
創業家は6割超の株を保有して経営を支配していたので、ただTOBをかけるだけでは追い出せない。ところが、この創業家保有株の大部分には第四銀行等の担保権が設定されていた。そこで、まず銀行が担保権を行使することによって大平氏から株を奪い、それをそっくりTOBでベインキャピタルに売り渡すことで、創業家を追い出そうとしているのである。

さてネット上では、この第四銀行等が担保権を行使して株式を取得する行為がインサイダー取引に当たるとの指摘が散見される。確かに、第四銀行がTOBの公表以前からベインキャピタルや現経営陣と相談して計画を進めてきたことは間違いないので、何となく怪しい臭いを感じてしまうのは分かるのだが、これをインサイダー取引というのは随分と乱暴な議論である。

そもそもインサイダー取引とは、未公開の重要事実を知った会社関係者が、それを知らない投資家と株を売買することを言う。典型的にはTOBがあることを公表前に知って株を買い込み、TOBが公表されて株価が上がったところで儲ける、といった行為である。

金商法166条の規定を改めて見てみると、「会社関係者」で、かつ重要事実を知った者は、

当該業務等に関する重要事実の公表がされた後でなければ、当該上場会社等の特定有価証券等に係る売買その他の有償の譲渡若しくは譲受け、合併若しくは分割による承継又はデリバティブ取引をしてはならない。(引用注:一部略)

となっている。

ところが今回第四銀行が行ったことは、(おそらく)ずっと前から設定されていた担保権を、TOBが公表された後に行使して株式を取得し、TOBに応募しただけである。つまり第四銀行は、未公表の重要事実(=TOBの計画)を知ってからそれが公表されるまでの間に、雪国まいたけ株式を取得するための新たなアクションは何ら取っていないはずなのだ。

もしも第四銀行が、TOBの計画を知りながらそれを隠して新たに担保権を設定したのであれば、「譲受け」に類する行為と見做されて金商法違反に問われてもおかしくないが、そうした事実は指摘されていない。

第四銀行が未公開の重要事実を知りながら行ったことは、唯一、「TOBがローンチされたら担保権を行使して応募しますよ」と、ベインキャピタルとの間で約束しただけである。これがインサイダー取引の「売買」に該当すると構成するのは、法文解釈上、相当に無理がある。
まず、第四銀行が行使すると約束したのは、彼らが(おそらく)元々持っていた権利であり、新たに株式やその権利を取得したわけではない。また、約束の相手型であるベインキャピタルは株の売主にはならないわけだし、そもそも自分がTOBをかけるという重要事実を当然知っており、クロクロ取引(※未公表の重要事実を知っている者同士の取引。売り手も買い手も「クロ」なので)はインサイダー取引規制の対象外である。

唯一問題があり得るとしたら、設定された担保権が行使可能になるように、第四銀行が積極的に働きかけていた(かつそれを重要事実を知りながら行っていた)ような場合である。例えば、大平家が弁済を進めようとしていたにも関わらず、第四銀行が積極的にそれを制止したり、或いは、借入金の返済計画をコントロールする現経営陣が第四銀行とグルになって、意図的に弁済を遅らせて担保権の行使を可能にした、といった場合である。

仮にこうした状況があったのであれば、第四銀行が本来取得できなかったはずの株を、重要事実を知らない株主(=大平家)を欺いて取得した、という主張は展開できるかもしれない。逆に言うと、こうした事実を少なくとも推認させる根拠を示さずに「インサイダー取引だ」と言ってみても、それは「裏でコソコソやるのはけしからん」という感情論の域を出ない。(繰り返しになるが)重要事実を知る前から持っていた権利を、重要事実が公表された後で行使したというだけでは、インサイダー取引の問題にはならないのである。

第四銀行の対応が道義や礼儀の問題としてどうなのかという議論はあろうが、違法性を問うのは筋違いであろう。

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