2017/07/12

【読書】 「小池劇場」が日本を滅ぼす 有本香



先週の都議選で、都民ファーストの会があそこまで圧勝するとは意外だった。

約1年前に旋風を巻き起こした小池都知事は、その後、問題を混ぜっかえすだけで何の成果も挙げられていない、というよりも、そもそも何をやりたいのかが一向に見えてこない。本書が冒頭で指摘するように、かつてポピュリストとも批判された小泉純一郎氏や橋下徹氏には、賛否はともかく実現したい理念や政策があった。安倍首相や、米国でポピュリストとの批判が根強いトランプ大統領にしても、彼らなりの主義主張がある。しかし小池氏には、耳触りのよいスローガンと自分をヒロインにした政局ドラマ以外に、何もないのだ。

豊洲市場問題に関して言えば、土壌や地下水には確かに環境基準を超える汚染物質が確認されるが、その水を飲むわけでもそれで魚を洗うわけでもなく、コンクリートで遮蔽されており、何の問題も無い。むしろ築地の方が、建物の老朽化、アスベスト、温度管理もなく排気ガスや風雨にさらされる構造、構内の動線が入り組んでいることによる事故等、安全上の問題が多い(土地も汚染されている)。

だから移転は議論の余地のない急務なのだが、小池氏は都知事選挙で「一度立ち止まるべき」と主張した。個人的には、これは地盤のない彼女が反自民票を取り込むための方便で、都知事になればいずれ現実的な落とし所を探るのだろうと思っていた(この頃は、それなりに信念のあるリアリストだと思っていた)。

ところが小池知事は、豊洲への移転を独断で延期した上に、これを正当化するために「盛土問題」という本来どうでもいい話を針小棒大に騒ぎ立て、都民の不安を煽って正義の味方を演じることに成功した。

築地の土壌にも汚染があることが分かると、コンクリートで覆われているから大丈夫だと言い、ではもっと頑丈に覆われた豊洲も安全ではないかと追及されると、豊洲は安全だが「安心」が無いなどとよく分からない回答をする。挙句の果てに、都議選の直前になって、「豊洲には移転するが、築地も活かす」という意味不明の折衷案のようなものを出して来た。こんないい加減な案は、姑息な選挙対策であることが明らかだったが、それが批判されることもなく、結局、共産党からの批判を抑えることにも成功し、都民ファーストは大勝してしまった。

つくづく天才的な政局センスと強運に恵まれた人だが、この1年弱の行動を見るに、小池氏には信念も東京都政への真摯な問題意識も何もなく、ただひたすら、自らの人気と権力の拡大に腐心しているようにしか見えない。

自分が正義の味方でいるためには、悪役が必要である。都議会自民党や旧勢力(石原元知事など)が悪事を働いていたという筋書きが必要だから、本来問題が無かった(あるいはあったとしても軽微だった)盛り土やら土地取得の経緯やらで問題を作り出し、都政を分断している。もちろん権力基盤を固めることも大事が、そのためには情報を歪めて都政の混乱や停滞を招くことの弊害をも一顧だにしないかのような姿勢は、あまりにも節操が無い。にも関わらず、都民ファーストの会なる何の政策理念もない政党に喝采が送られ、小池氏を批判する声がほとんど出て来ない現状は、かなり危険だと思う。「安倍一強」で言論が萎縮するという話があるが、何をやっても朝日新聞等に執拗に攻撃される安倍政権よりも、この明らかな異常事態をどのマスメディアからも批判されない小池都政の方が、はるかに不健全である。


本書は、小池氏と敵対する勢力全てに同情的な共感を向け、公平性を欠くきらいもあるが、上記のような問題を分かりやすく指摘した良書である。

都議選で第1党となったので、人気取りは一休みして政策の実現に邁進してほしいところだが、国政への色気を隠さない小池氏は、さらに人気取りに勤しむのだろう。東京の未来は暗い。

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