2009/08/22

【読書】 外交敗戦-130億ドルは砂に消えた 手嶋龍一

元NHKワシントン市局長手嶋龍一氏による、湾岸戦争勃発時の日本外交のドキュメンタリー。

湾岸戦争で日本は130億ドル(約1.5兆円)もの財政支援をしたにもかかわらず、イラク軍から開放されたクウェートが発表した30カ国の「恩人」リストに日本の名前はなく、国際社会からも高い評価を得られなかった。こうした事態がなぜ起こってしまったのか、具体的個人を実名で挙げながら、丹念に検証していく。

端的に言えばそれは省庁間の連携不足の結果であり、外務・財務・運輸等の関係各省が情報連携を怠り、ミスが出る。その根底には相互不信があるわけだが、そのミスが更に相互の不信を呼ぶという負のスパイラルに陥っていく過程が浮かび上がる。現場の個々人は各省のエース級の人々だし、それぞれの立場で、合理的な行動を取っている。それは必ずしも、しばしば指摘されるような単純な省益優先やエゴのぶつかりあいばかりではなく(そういう側面も無いわけではないが)、それぞれの立場に、「国益を最優先した」という言い分がある。そしてそれぞれの言い分の前提には、つまるところ「彼(か)の省は信用できんので、国益を守るためには、うちとしてはこうするしかないのだ」という自負があるのである。現状認識、ゴール、戦略等が共有されない中で各個がバラバラに「国益」を追求した結果、チーム日本は外交戦において惨めな敗北を喫することになる。官僚組織の限界の源は、エゴではなく相互不信なのかもしれない。

もう一つ浮き彫りになったことは、国の基本的な外交戦略における国民と為政者との認識のギャップ(武力行使は絶対反対の国民と、国際貢献のためにある程度必要だと考える政治家・官僚)が固定化してしまった不健全な状況における外交の限界である。その結果、自衛隊が輸送する物資に医療資材は積んでもいいが、武器・弾薬はダメだというおかしなレトリックを立てざるを得なくなっている。

手嶋氏の徹底した取材と鋭い分析にはただただ舌を巻くばかりである。また、単調なドキュメンタリーではなく、生々しい情景や心情の描写を織り交ぜて、純粋に読み物としても楽しめる作品になっている。わが国の歴史上の重要な事件の一つを記録した貴重な書として、広く・長く読まれるべき良書だと思う。


 外交敗戦―130億ドルは砂に消えた
 新潮文庫
 手嶋龍一
 2006年6月(初版は1996年だったかな)
 
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