2017/10/31

【読書】 金利と経済 翁邦雄 ①



翁氏の解説・論考は、いつもながら明快で面白い。

アベノミクスから四年近くを経て未だに物価上昇の兆しが見えない状況を踏まえ、本書は長期停滞論を紹介する。タイラー・コーエンが有名だが、レイチェルとスミスと論文を引いて、少子高齢化や不平等の拡大等によって、自然利子率が低下している可能性が指摘される。それがマイナスになる状態では、伝統的な金融政策は効かない。2013年4月に繰り出された異次元緩和を、本書は「見せ金」と表現した。単純なリフレ政策が効かないことは、黒田総裁含め日銀は分かっていたはずなので。(浜田宏一氏はどうも本気でリフレ理論を信じていたようだが。。)しかしこの見せ金は、為替と株価と不動産価格には影響を与えたが、物価や賃金の上昇には繋がらなかった。

2016年1月、追い込まれる形で日銀はマイナス金利の導入に踏み切った。日銀のマイナス金利政策の特徴は、まずその階層構造にある。

1階部分=基礎残高:直近の当座預金残高から算出された210兆円分 → 引き続き0.1%の金利がつく
2階部分=マクロ加算残高:当初40兆円(その後増やす)→ 金利ゼロ
3階部分=政策金利残高:10兆円程度に調節 → -0.1%の金利

日銀が大量の国債を買い取った結果、民間金融機関は巨額の当座預金を抱えており、そこから金利収入を得ている。これを全てマイナスにすると、金融機関の経営に与える悪影響が大き過ぎると考えられた。ただでさえ、マイナス金利は貸出金利の低下を通じて金融機関の体力を奪うので、この妥協はやむを得なかったというのが著者の評価である。

この250兆部分は動かずに日銀当座預金に死蔵されたままになるが、短期金融市場においては10兆円の政策金利残高部分の動きだけで金利が決まる。マイナス金利が適用される銀行が余裕資金を融通しようとして裁定が働くことで、金利をマイナスに誘導できるのだ。

しかしこうした政策は、いくつかの問題を内包していた。
・基礎残高に付された0.1%の金利は、市場金利から切り離されたことで、金融機関に対する単なる補助金ともいえるようなものになってしまった。
・長期国債金利が予想以上に下がって、10年金利までマイナス圏に突入してしまった。著者はここで日銀トレードによるバブルの弊害を強調している(バブル自体は、程度の差はあれど、異次元緩和の初期からすでに発生していた気もするが)
・日本はすでに長期にわたる低金利で金融機関の利鞘がかなり薄くなっていたため、一段の金利低下によって金融機関が受ける収益インパクトが、(先にマイナス金利を導入した欧州諸国と比べて)かなり大きかった

最後の点がまさに懸念されたために、日銀は三層構造を採用したわけだが、これはやはり根本的な矛盾を抱えていたように思える。
そもそも金利をマイナスまで切り下げる目的は、それによって金融機関から見た貸出等の経済的魅力を相対的に高め、日銀に死蔵された資金が市中に流れ出ることを通じてマネーサプライの拡大、ひいては物価の上昇を目指すことにあったはずである。しかし、金融機関の収益性を守るために当座預金の大部分には従来通りの金利が付される一方、長期金利は大幅に下がってしまったため、当座預金を貸し出しに回すことで生まれる利鞘は、むしろ縮小してしまった。もちろん、政策金利残高部分に限って見れば、マイナス金利のペナルティは当座預金を貸出等に回すインセンティブを生んだだろうが、その枠を超えた大幅な貸出増は、そもそも期待されていなかったということになる。

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