2009/08/24

【読書】 だまされないための年金・医療・介護入門  鈴木亘

社会保障制度の中心を成す3つの制度(年金・医療・介護)を、主に財政と経済学の視点からわかりやすく解説した入門書。厚労省や社会保障国民会議の議論の問題点や現在の改革案の限界が非常にわかりやすく指摘されており、読み進めるうちにモヤモヤがすっきりしていく感覚を覚える。現在の日本の社会保障の一般向け解説書として、最高の良書の一つだろう。
重要な指摘がいくつもあるが、個人的に大きかったのは積立方式への以降が現実的な選択肢であることに納得できたこと。以下に若干の解説を試みる。

現在の日本の社会保障制度は、年金も医療も介護も、現役世代が退職世代を支える「賦課方式」になっている。このため、少子高齢化が進んで社会保障の受け手が増えて担い手が減ると、受け手の給付を減らしたり担い手の負担を増やしたりしなければならなくなる。ここに「世代間格差」が生まれる。ここまでは常識だろう。

一方「積立方式」は、老後の年金を現役時代に自分で積み立てておいて、後で取り崩して使う制度だ。自分が積み立てた分を自分で使うのだから、「担い手」と「受け手」の数は基本的に同じである。だから少子高齢化の影響を受けず、世代間格差は生じない。

したがって積立方式に移行すれば問題は解決しそうなのだが、ひとつ大きな問題がある(と言われてきた)。それが「二重の負担」の問題だ。現行制度は賦課方式だから、今の現役世代が払っている分はそのまま今の退職世代の年金に使われて消えてしまっている。今から積立方式に移行しようと思ったら、移行期の現役世代は親の世代の年金を払いつつ、自分の老後の年金も積み立てなければならない。移行期の世代に過大な負担がかかってしまう。これが「二重の負担」問題である。

この「二重の負担」が実はたいした問題ではなく、積立方式への移行は十分に可能である、というのが、本書の重要なメッセージの一つである。

その理由は3つある。これは言い換えれば、「二重の負担」問題を考える際に無意識に置いてしまいがちな3つの前提が、実は正しくないということである。

第1に、移行は一気に行うとしても、移行時期の退職世代の社会保障費はその時期の現役世代だけが背負わなければならないわけではない。その前後の世代にまで広く薄く分散すればよい。そしてそれは、第2・第3の理由から、可能である。

第2に、積立方式の積立金を政府が常に蓄えておく必要はない。単純に考えると、積立方式では現役の間は一方的に積み立てるだけだから、何百兆円ものお金がどんどん蓄えられていくことになる。しかし考えてみれば、使われないお金をこんなに政府が溜め込む必要はない。足りないお金は世代間で融通し合えばよい。移行期の現役世代が払う年金の大部分は親の世代に使われてしまうが、その移行期世代の退職後の年金は、その後の世代が払う年金保険料から充当すればよいのである。
それでは賦課方式と変わらないではないかと思われるかもしれないが、それは違う。「積立方式への移行」とは、現役:退職比率によって保険料や支給額が変動する仕組みをやめて、世代ごとに勘定を管理し、全ての世代が払った分と同じくらいもらえるようにするという原則に移行することである。その原則を確立し、世代間格差が生じないように負担と受給を調整すれば、後ろの世代のポケットからお金を借りてやりくりすることは問題ないのである。

第3に、既に積み上がっている積立金の存在がある。もともと日本の年金制度は少子高齢化が進む前に積立方式として始まったので(その後、無原則に給付を拡大したため、なし崩し的に賦課方式に移行した)、現役世代が圧倒的に多かった時代に積み上げた積立金が厚生年金だけでも130兆円ある。本来は670兆円なければならないそうなので、8割近くが消えてしまったわけだが、それでも130兆円のバッファーがあり、理論的には、これがマイナスにならなければ年金財政は破綻しない。積立方式の原則を確立し、きちんと見通しを立てて運用すれば、この130兆円をバッファーとして活用することは可能である。

ただし、本来必要な積立額をすでに8割も使い込んでしまっているので、当たり前のことながら、ある程度の(というかかなりの)負担増はいずれにせよ必要である。それは、我々の子供や孫の世代に破滅的な借金を回すことを回避するために必要な負担である。

あまりうまく説明し切れていないが、興味を持った方はぜひ本書を読んでほしい。納得できるだろう。


他にも以下のような疑問をお持ちの方には、とてもよいガイダンスを提供してくれることと思う。読み進めると、きっと政府への怒りが湧き上がってくると思うが。。。

・自分の世代は他の世代と比べて、ぶっちゃけどれくらい損/得するのか?

・自分の子供たちの世代になったら、社会保障費の負担はどうなってしまうのか?

・政府は何をもって年金が「100年安心」と言っているのか?

・それを批判する人は、なぜ安心できないと言っているのか?具体的にどこに問題があり、いつどんな形でそれが現れるのか

・「マクロ経済スライド」って何なのか?

・後期高齢者医療制度はそれまでの制度と何が違うのか?

・介護市場はなぜ人手が足りないのか?


だまされないための入門


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