2009/08/26

統治機構を考える(その1):民主党のマニフェスト

民主党がマニフェストで「5原則」「5策」という統治機構改革を掲げた。
私は民主党のマニフェストの個別政策に対しては多くの異論を持っているが、この統治機構改革だけは高く評価している。しかしこの部分はこれまでメディア等では十分報道されておらず、そのインパクトが理解されているとは言いがたい。そこで、これから数回にわたって、この改革が何を目指しているのかを解説してみたいと思う。

「5原則」と「5策」はそれぞれ以下の通り。


5原則
1.官僚丸投げの政治から、政権党が責任を持つ政治家主導の政治へ。

2.政府と与党を使い分ける二元体制から、内閣の下の政策決定に一元化へ。 

3.各省の縦割りの省益から、官邸主導の国益へ。 

4.タテ型の利権社会から、ヨコ型の絆(きずな)の社会へ。

5.中央集権から、地域主権へ。


5策

1.政府に大臣、副大臣、政務官(以上、政務3役)、大臣補佐官など国会議員約100人を配置し、政務3役を中心に政治主導で政策を立案、調整、決定する。 

2.各大臣は、各省の長としての役割と同時に、内閣の一員としての役割を重視する。「閣僚委員会」の活用により、閣僚を先頭に政治家自ら困難な課題を調整する。事務次官会議は廃止し、意思決定は政治家が行う。 

3.官邸機能を強化し、首相直属の「国家戦略局」を設置し、官民の優秀な人材を結集して、新時代の国家ビジョンを創り、政治主導で予算の骨格を策定する。 

4.事務次官・局長などの幹部人事は、政治主導の下で業績の評価に基づく新たな幹部人事制度を確立する。政府の幹部職員の行動規範を定める。 

5.天下り、渡りのあっせんを全面的に禁止する。国民的な観点から、行政全般を見直す「行政刷新会議」を設置し、全ての予算や制度の精査を行い、無駄や不正を排除する。官・民、中央・地方の役割分担の見直し、整理を行う。国家行政組織法を改正し、省庁編成を機動的に行える体制を構築する。


 
周知のように、日本の統治機構は多くの問題を抱え、国民から全く信頼されていない。
政治は普通の国民一人ひとりの声を聞かずに、一部の人の利益を図るように動いている。政治家は自分が当選して金儲けすることにのみ腐心し、政策が分からないから官僚の言いなりだ。その官僚は天下りポストを増やして税金を懐に入れることしか考えていない。こうした不信感は国民に広く共有されており、それは当を得た批判だと思う。

しかしそこで、政治家や官僚個々人や個別の政策・不祥事を批判していても、何も変わらない。問題なのは、そういう政治家・官僚を生み出すようにできているこの国のシステムである。システムを変えない限り、生み出される政治家や官僚は変わらず、そこから生み出される政策の質もまた、決して変わらないのである。

統治機構改革は、政策という製品を製造する工程のオペレーションを改善するようなものである。政策というアウトプットの質を高めるためには、それが作られるシステム全体の構造と仕組みを理解し、それが機能不全に陥っている問題を見抜き、流れを変えるための的確な手を打たなければならない。問題の表面だけを見て部分的に制度をいじっても、問題は解決しないばかりか、むしろ悪化させることもあり得る。

たとえば、以下に列挙した政治改革案を見てほしい。

1. 大臣には、国会議員ばかりでなく、民間人も積極的に登用すべきだ

2. 国家のリーダー選出に国民の声が直接反映されるように、首相公選制を導入すべきだ

3. 官僚主導の現状を是正するため、議員立法をもっと増やすべきだ

4. 政党だけでなく、議員一人ひとりがマニフェストを掲げて自らの主張や構想を明らかにすべきだ

5. 党議拘束は廃止すべきだ。法案への賛否の決定を党に委ねるのではなく、一人ひとりが責任をもって自分で考えて結論を出すべきだ。議員は全て選挙で国民に直接選ばれた代表だから、政党が束縛するのはおかしい

6. 政治家個人への企業献金は一応禁止されたが、様々な抜け道がある。徹底的に禁止すべきだ

7. 議員が政策立案をするには、専門のスタッフが必要だ。現在は3人しかいない公設秘書を大幅に拡充するべきだ



これは巷でよく聞かれる政治改革論をいくつかピックアップしてみたものである。どれももっともらしい提案と思われるかもしれないが、実はこの中には日本のシステムにはなじみにくかったり、相互に矛盾する提案も含まれている。

この点、民主党の統治機構改革は、明確な意図を持ったものであり、一つの思想が貫かれている。結論から言えば、それはイギリス型の二大政党制民主主義を日本に根付かせようというものである。イギリス型が本当に日本にとって望ましいのか、ということについては様々な意見があると思うが、私は民主党の提案を、1990年代以降に行われてきた政治改革を更に前進させ、日本に民主的政治システムを機能させ得る一つのモデルを目指す改革案として、肯定的に評価したい。

ここでは、まずイギリス型のシステムとは何かということを、イギリスと反対の極に位置するアメリカとの比較を通じて明らかにした上で、これら2カ国の要素+独自の要素が複雑に入り混じった日本の現状のシステムのどこが問題なのかを分析し、「イギリス型を目指す」ということの意味を考えてみたい。
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