2009/08/26

統治機構を考える(その2):大統領制と議院内閣制

日本の統治機構は、いろんな組織や委員会が乱立し、どこにどんな権限があるのか、とても分かりにくい。その仕組みや問題点、解決策は、日本の制度だけを見ていてもよく分からないのである。

そこでまず統治機構の単純な理念型を理解した上で、それと日本がどのように違うかを見ていきたい。理念型として参考になるのが、民主主義の二つの母国、アメリカとイギリスである。日本はこの中間で、両国の特徴を併せ持ちつつ、独自の側面も持っている。


イギリスとアメリカの制度を比較する際のポイントは以下の3つである。
 1.議会と政府の関係
 2.議員と政党の関係
 3.議会の機能

この全てについて、イギリスとアメリカは正反対である。両国は、それぞれ異なる理念・思想に基づいて、両極端のシステムを作り上げたのである。

※これから紹介するのは単純化したモデルで、イギリスにもアメリカにも様々な例外的な規定や慣行がある。また、これらの両極端のモデルのどちらかがベストということではなく、その中間形がベストかもしれない。ただし、双方のいいとこどりをするためには確かな戦略に基づいた緻密な制度設計が不可欠であり、日本のように無原則に双方の要素を混ぜたシステムは、機能しないのである。


1.議会と政府の関係

まず、アメリカの大統領制から見ていこう。
大統領制は、国民が立法府の代表者(議員)と行政府の代表者(大統領)をそれぞれ別々に選ぶ仕組みである。政治に民意を反映させる経路は、図に赤い矢印で示したように、2本ある。1本は国民が議会の議員を選ぶルート。もう1本は、国民が大統領を選び、大統領が長官を選び、長官が官僚を指揮していくルートである。議会と政府は国民から別々に選ばれ、互いに牽制しあう関係にある。いわゆる「三権分立」の制度である。

大統領制(中)




他方、イギリスの制度は議院内閣制である(日本も議院内閣制)。
議院内閣制とは、議院が内閣を作る制度であり、民意を政治に反映させるルートは1本である。国民は議員を選び、議員が首相を選び、首相が閣僚を選び、閣僚が官僚を指揮していく。そこで重要なことは、議会と政府の一体性※である。国民は首相を直接に選ばず、議会に選出を委ねているので、議会と一体でない(議会がコントロールできない)政府には、国民のコントロールが及ばないことになってしまうからである。
繰り返すが、政府と議会多数派は「分立」ではなく「一体」であることが、議院内閣制の要諦なのである。この基本中の基本を分かっていない人があまりにも多いため、日本の政治制度を巡る議論はいつも混乱している。我々が小学校の頃から金科玉条のように教え込まれている「三権分立」はアメリカのような大統領制の原則であって、イギリスや日本のような議院内閣制にはしっくり当てはまらないのである。

※正確には、議会多数派=与党と政府の一体性である。野党と政府は、当然ながら、緊張関係にある。そうでないと、独裁体制になってしまう。

議院内閣制(中)


上に見た違いは、大統領や首相の選び方だけの問題ではなく、制度の様々な部分にまで徹底されている。以下、その一部を概観する。


①首相/大統領および閣僚の地位
イギリス:首相をはじめ大臣は、全員必ず国会議員。150人前後の与党議員が政府入り。
アメリカ:大統領も長官も、議員出身である必要はない。議員と大統領や閣僚の兼任は不可。

イギリスは、議会と政府の一体性を重視するから、首相や大臣は国会議員でなければならない。そして大勢の与党議員が、実際に大臣や副大臣等のポストで政府に入って行政を動かす。
逆にアメリカでは、議会と政府の緊張関係を重視するから、大統領や長官は連邦議会議員出身でなくてもよく(実際、知事や民間人出身者が多数)、むしろ大統領や長官は連邦議会議員であってはならない。すなわち、連邦議会議員が大統領や閣僚になる場合には、議員を辞職しなければならない。この規定に従い、オバマもヒラリーも、上院議員を辞職した。
両国は、全く正反対なのである。


②議会による内閣不信任/首相・大統領による議会の解散
イギリス:下院はいつでも内閣不信任を議決して内閣を辞めさせることができる。首相は逆に議会の解散権を持つ。
アメリカ:議会の大統領解職権はきわめて限定的(弾劾裁判で法律違反を問う場合のみ。政治責任は問えない)。大統領による議会解散権は無い。

イギリスの仕組みでは、議会が首相を選んでいる。首相の正統性の根拠は、国民の代表たる議会に選ばれていることであり、首相は議会に責任を負う。だから議会は、首相が間違っていると思えば、自分達が選んだ首相を辞めさせることができる。国民に直接選ばれた議会は、議会によって選ばれた首相・内閣よりもエライ(強い正統性を持つ)のである。ただし、首相の側にも議会を解散して国民の信を問い直す権限を与え、バランスをとっている。
一方アメリカの大統領は、議会とは別の選挙で国民に直接選ばれている。だから議会と大統領は対等であり、議会と大統領の見解が違ったからといって、議会が大統領を辞めさせていいということにはならない。

別の言い方をすると、議院内閣制は、議会(の多数派)と政府が一体となって政治に当たる制度だから、両者の方針が一致していることが前提であり、そこが一致しないと政府が機能不全に陥る。そこで、そうした不健全な状態を解消するための方策を議会と首相の双方に授けている。一方、アメリカの大統領制では議会と大統領は別々に選ばれているから、そもそも両者の方針が一致しているという前提がない。一致しなければ一致しないなりに牽制しあってやって行け、というのがアメリカの仕組みである。


③法案の作成と提出
イギリス:大部分の法案は政府が作り、閣僚が議会に提出する
アメリカ:法案は全て議員が作り、議会に提出する

与党の議員が政府に入って政策を作るのがイギリスの議院内閣制なので、法案は政府が作り、議会に提出する(厳密には「政府提出法案」という形はなく、大臣等が国会議員としての立場で法案を提出する)。「政府と議会が一体となって政治に当たる」とは、このようなことを意味する。政府に入っていない議員が個人として提出する議員立法も存在するが、数は少なく、例外的な存在である。
他方アメリカでは、政府と議会は別々に活動するのが建前なので、政府に議会への法案提出権はない。法律は全て個々の議員が作り、提出するから、日本のような「政府提出法案」というものは存在せず、議員立法のみである。だから個人名がついた法律がたくさんある。大統領が進めたい政策に法律の裏づけが必要であれば、その趣旨に賛同する議員を見つけて法律を作成・提出してもらわなければならないのである。


④拒否権
イギリス:首相には、議会に対する拒否権は無い
アメリカ:大統領は議会の法案に対する拒否権を持つ

アメリカでは、議会を通過した法案に対して大統領が拒否権を持つ。拒否権が行使された法案は議会に差し戻され、上院と下院で3分の2で再可決されない限り成立しない。大統領にこのような権限が認められているのは、大統領は国民から直接選挙で選ばれており、議会と対等の正統性を持つからである。
一方イギリスでは、首相の権力の正統性は議会に由来するから、首相が議会の法案を拒否するというのは、社長が株主総会の決定を拒否するようなものである。そんな権限が首相に認められることは、原理的にあり得ない。


以上のように、イギリスとアメリカの議会・政府関係は全く違う。

イギリスでは、議会が政府を作るのであり、両者は一体となって活動している。国民は首相の選出を議会に委ねているので、議会と政府が一体であることが、政府に対する国民のコントロールを担保する唯一の道である。議会と政府が一体であるということは、権力が一元化されているということである。首相は常に、政府の長であり、かつ議会の多数派のトップでもある。強大な権力が与党・政府、そしてその長である首相に集中しているのである。

他方アメリカでは、議会と大統領は別々に選ばれて別々に活動する。それぞれが国民の代表であり、それぞれが牽制しあう、チェックアンドバランスの仕組みである。日本では一般に大統領制における大統領には強大な権力が集中していると誤解されているが、議会と政府の双方を押さえている議院内閣制の首相と比較すれば、議会をコントロールできない大統領は、制度上弱い立場にあることは明らかである。

しかしそれでは議院内閣制の首相である日本の内閣総理大臣が強い権限を握っているかというと、とてもそうは見えない。首相は常にいろんな人から足を引っ張られ、リーダーシップを発揮できないようになっている。それはなぜなのか、その核心に迫る前の準備として、次回はイギリスとアメリカの制度比較の残りの論点をまとめる(2.議員と政党の関係、3.議会の機能)。


コピー ~ DSCF1557

写真:イギリスの国会議事堂(2009年5月)


(続き→)議員の独立性(党議拘束と選挙)

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