2009/08/27

統治機構を考える(その3):議員の独立性(党議拘束と選挙)

前回は議会と政府の関係におけるイギリスとアメリカの違いを述べた。ここで他の2つのポイントも含めた、英米の比較表を提示しよう。

米英の比較まとめ


2.議員と政党の関係

統治機構を比較する2番目の視点は、政党と議員との関係(議員の独立性)、すなわち、政党が所属議員をどこまでコントロールし、議員はどの程度自由に活動できるか、というポイントである。この議院の独立性を決定するうえでクリティカルな二大要素が、党議拘束と選挙のあり方である。

党議拘束とは、議会での議案採決の際に、政党が所属議員に賛否を強制することである。イギリスは党議拘束があり、与党の議員は原則として全員、政府提出法案に賛成する。一方、アメリカには党議拘束はなく、民主党議員が提出した法案に、同じ民主党の議員が反対したり、共和党の議員が賛成したりする。

選挙の面でも両国は全く違う。アメリカでは候補者個々人が、自分で資金を集め、自分で選挙区を決めて、自分個人の政策や実績をアピールして戦う。日本と同様、地盤・看板・カバンが物を言う、候補者中心の選挙である。金をもらわない代わりに指図も受けないのがアメリカの候補者なのである。

一方イギリスでは、候補者は政党の政策を説明して回る。候補者独自の政策というものは打ち出さない。また、資金面でも政党が面倒を見る決まりで、個人の持ち出しは上限が百数十万円までと定められている。誰がどの選挙区から出るかも、政党の本部が決めて配置する。イギリスでは落下傘が当たり前で、地盤は関係ない。選挙の度に候補者が選挙区を移ることも日常的である。あらゆる意味で、候補者は政党に統制されるのである。

以下はご参考までに、ある政治ジャーナリストのブログの引用である。

<前略>英国の選挙は政党のマニフェストを選ぶ選挙で、決して候補者を選ぶ選挙ではない。従って候補者には自分を売り込む宣伝カーもポスターも選挙事務所も要らない。政党の政策パンフレットを持って戸別訪問するだけである。有権者にマニフェストの内容を説明し、政党への投票を呼びかける。有権者が意識する個人は説明に来た候補者ではなく、政党の党首すなわち次の首相候補である。だから英国民は政党の政策と首相を選ぶ選挙をやる。選挙費用は政党が賄うから候補者にはほとんどかからない。従って選挙区と候補者の結びつきもなく世襲も生まれない。

 ところがアメリカの選挙は全く違う。アメリカは候補者を選ぶ選挙である。候補者は自分がどういう人間か、どれほど地域の役に立つか、自分の政治信条は何かなどを訴える。選挙費用を稼ぐためにパーティを開き、寄付を集めて回る。選挙費用を集める能力が政治家になるための最も大事な能力と言っても良い。だからアメリカの議員は政党の政策に縛られない。議会で党議拘束はなく、従って採決は予断を許さない。議会での真剣な討論の結果で法案の行方が決まる。<後略>

田中良紹 「公職選挙法の珍奇(2)」 



党議拘束というのは、あまり評判がよくなく、“その1”で挙げたように、廃止論を唱える人も多い。確かに、「決定を党に委ねるのではなく、議員一人ひとりが責任をもって自分で考えて結論を出すべきだ」「議員は全て選挙で国民に直接選ばれた代表だから、政党が束縛するのはおかしい」といった主張は、一見正しく聞こえる。しかしイギリス、日本を含め、ほとんどの議院内閣制の国では、何らかの形で党議拘束を採用している。それは、議院内閣制にとって必要な仕組みだからである。なぜか?

議院内閣制における首相は、国民の選挙で選ばれて首相になったわけではない。その正統性の根拠はあくまで、国民の代表たる議会が首相を支持していることである。そこが怪しくなった瞬間に、首相の権力の正統性も怪しくなる。実際、議会は内閣不信任案という形で、首相を解任する手段を持っている。これは、国民に直接選ばれている大統領と決定的に違うところである。

こういう仕組みの下で、党議拘束を無くしたら何が起こるだろうか?
内閣提出法案に造反して反対票を投じる与党議員が出てくることになる。この与党議員は「内閣は支持するが、この個別法案には反対」というロジックを立てるだろうし、それは理屈としては成り立つかもしれない。しかし現実問題として、何度も造反を繰り返している議員は、本当に内閣を支持しているのか、疑義が生じるだろう。また、内閣の根幹政策での造反は、それ一発で内閣不信任と同視されても仕方ないだろう。こうした議員に対しては、当然、野党から更なる造反や引き抜きの働きかけが行われるだろう。こうした議員が増えれば、与党内にも「首相降ろし」の動きが出てくる。それが、政治という権力闘争の現実である。そんな状態では、首相のリーダーシップは発揮できないし、政権は安定しない。安定しない政権は、何も実行できない。

議院内閣制の首相の権威・権力の源泉は、議会の過半数が、常に、一致して、彼/彼女を支持していることである。それを担保するためには、政党による統率が必要なのである。
アメリカの大統領であれば、こういう話にはならない。もちろん法案が通らなければ大統領も困るが、国民から直接選ばれている大統領は、議会に支持されていなくても権力の正統性がある。「私は国民に支持されている。間違っているのは議会の方だ」と堂々と主張すればいい。だから党議拘束は必要不可欠ではない。

また、そもそもイギリスの政党の執行部は、ただ自分の気の向くままに所属議員を縛り付けているわけではない。イギリスでは、選挙のときにマニフェストで方針を提示して、それに賛同した人だけが選挙に出馬しているという建前がある。したがって、国民にそのマニフェストが選択されて政権をとればそれを粛々と実行して行くのが与党議員の役目ということになる。造反は有権者との契約違反であり、造反者を出さないことが与党の責務とも言えるのである。

コピー ~ DSCF1549

写真:投票への参加を呼びかけるイギリスのポスター。ロンドン市内の地下鉄にて(2009年5月)


(続き→)議会の機能-「真剣勝負」と「できレース」?
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