2009/08/27

統治機構を考える(その4):議会の機能-「真剣勝負」と「できレース」?

3.議会の機能

前回書いたように、アメリカには党議拘束がないので、議会で審議してみないと、法案や予算が成立するかどうかは分からない。議員の立場は予め決められているわけではないから、法案の内容によって賛成に回ったり反対に回ったりする議員がいる。そこで法案を通したい議員は、提出した後にも、より多くの賛成が得られそうな形へと法案を修正していく。アメリカの議会は法案を実際につめて、修正(変換)する場なのである。よく言えば、議員個々人が自分の政治信条に基づいて、その場での「真剣勝負」の議論でベストな法案を練り上げていくということである。それは、党議拘束が無いからこそ成り立ち得るスタイルである。

一方、イギリスには党議拘束がある。与党の議員は政府の議案には基本的に皆賛成するのである。与党議員は議会の多数派であるから、政府が作る法案は必ず可決される。ほとんど修正もされない。勝負はやる前から分かっているのであり、言わば「できレース」である。

ここまで読むと、ほとんどの方は「アメリカ型の方がいいではないか」と思ったのではないだろうか。しかし、それがそう単純ではないのが、政治システムの難しいところである。

その場で反対派の意見をどんどん取り入れて法案を修正していくというアメリカ型では、条件闘争による多数派工作が行われる。その過程では、制度の本来の主旨を歪めるような修正も行われざるを得ない。また、議員同士の間で「今回はお前の法案に賛成してやるから、今度別の法案ではオレに協力してくれ」といった政治信条もへったくれもない取引が、不可避的に発生する。その結果でき上がるのは妥協の産物である。様々な意見を入れて玉虫色の折衷案を作るくらいなら、どこか一つの政党が、統一的な理念に基づいて一貫性のある政策を作ってくれた方がよい、という考え方もある。こうした考え方に基づいて、まずは権力を預けてやらせてみる、というのが、イギリスの制度である。

ただし、その時にただ権力を預けてしまっては、独裁になってしまう。そこで政権には厳しい監視の目を光らせ、批判にさらさなければならない。そしてダメだと分かったら次の選挙で交代させればよい。そのために重要な役割を果たすのが、議会での審議なのである。

先に、イギリスでは政府の法案はほぼ修正されずに原案のまま可決される、と述べた。それでは議会は何のために存在するのか、と疑問に思われた方もいるだろう。その答えが、前回の表に書いた「アリーナ」である。

政府の法案は可決されると分かっているので、野党はそれを否決に追い込んだり、抵抗して妥協を引き出そうとは最初から考えていない。では何をするのか。政府を批判して、政策の盲点を明らかにしたり、対案を提示するのである。
と言っても、政府に聞いてほしくて提示するのではない。政府が簡単にそれを聞き入れて「私たちが間違っていました」と方針を覆すはずが無い。ここでの主なオーディエンスは政府や与党ではなく、国民である。
「与党政府の政策は間違っている。我が党ならば、まったく別のこういう理念に基づいて、こんな政策を実行する」と国民に訴えかける、その演説の場(アリーナ)が議会なのである。どれだけ批判しても、政府の政策はすぐには変わらないだろう。しかし、国民はそれを聞いて与党政府と野党の政策を比較することができる。そして次の選挙で審判を下す。そうすることで、チェック機能を働かせ、政権の独裁と暴走を防ぐ。それがイギリス流の民主主義なのである。


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Comment
お久しぶりです。

いつも興味深くブログを拝見してます。

私の専門分野であるまちづくりでは、地域のビジョンを共有する、まさにアリーナ(場)が必要という研究がここ10年ほど続けられており、震災復興等の事例を通じて、徐々にではありますが地域におけるアリーナのあり方のヒントがでてきました。その一つは官・民・学のパートナーシップによる「事前復興」を通じたビジョンの共有にあります。地域の町会組織のような組織に頼るのではなく、個人と組織の関係を解きほぐすアリーナの重要性に、そろそろ有権者も気づき始めているのではないでしょうか。
Re: No title
コメントありがとうございます!
私が働いている組織も、そうした開かれた政策議論の場を設定することを目指しています。日本の議会はアリーナとしての機能が弱いですが(党首討論等はそれを強化する試みですね)、政権交代で変わってくるかもしれませんね。

ていうか今度近々会おうよ。そんな素敵な活動をされてるとは知らなかった。いろいろ意見交換しましょう。

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