2009/09/27

【読書】 The System  H. Johnson and D. S. Broder

The System: The American Way of Politics at the Breaking PointThe System: The American Way of Politics at the Breaking Point
(1997/04/01)
Haynes JohnsonDavid Broder

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今をさかのぼること16年前、クリントン政権は国民皆保険の導入を含む医療制度改革を試みた。当初国民の大多数に支持されていたそのプランは、2年近くにわたる政争の中で支持を失い、医療制度を建て直すというクリントンのチャレンジは完全な失敗に終わった。本書は、その過程を丹念に追い、大統領府や議会や様々な利益集団がどのように動き、何が改革を潰したのかを浮き彫りにした力作である。

現在オバマ政権が取り組んでいる課題(無保険者と膨大な医療費)はクリントン時代のそれと基本的に大きく変わっていないので、オバマの医療改革の推移を理解するうえで助けになるだろうし、医療に限らずアメリカ国内政治のシステムと力学を理解するために最適な書だと思う。

「統治機構を考える」の2~4で書いたように、アメリカは政府と議会が切り離された政治システムで、党議拘束が無いので、大統領肝いりの法案であっても成立するとは限らない。実際、当時は上下両院で民主党が過半数の議席を握っていたにもかかわらず、医療改革法案は廃案となったのである。

細かい点を挙げればきりがないが、構造を簡単にまとめると、以下のようになる。

○経緯
1992年11月  クリントン当選 
1993年1月   クリントン大統領就任
1993年春~夏  予算成立に手間取り、医療改革に着手できず
1993年9月   クリントンが議会演説で医療制度改革案を発表
1993年冬    クリントン政権に様々なスキャンダルが発覚し、支持率急落
1994年8月   廃案が決定的に
1994年秋    連邦議会選挙で民主党大敗(上院議席56→48、下院議席258→204)。共和党が両院で第一党に。

○政治状況
クリントンは1992年の大統領選で現職のブッシュを破って当選したが、彼の得票率は43%に過ぎず、また同時に行われた議会選挙で民主党は下院の議席を減らした。つまり、民主党への支持ははじめからそれほど高くなかった。とはいえ、民主党は上下両院で過半数を保持していた。

○共和党
1994年に行われる選挙で勝利して議会での主導権を奪還したいと考えていた。そのため、医療制度改革を失敗させてクリントン政権を躓かせるという目的で結束した。

○民主党
国民皆保険の実現を重視する議員は多かったが、その方法を巡っては様々な意見の対立が合った。

○利益集団
・Health Insurance Association of America:保険会社の団体。国の規制が強まると、保険料が抑えられたり、健康リスクの高い人を保険に受け入れざるを得なくなったりして、収益が減るので、クリントン案には絶対反対。
・National Federation of Independent Businesses:中小企業の団体。クリントン案は企業に従業員の健康保険を提供する義務を課し、金銭面も負担させようとしたため、反対。
・National Association of Manufacturers, Chamber of Commerce, Business Roundtable:大企業の団体。大企業の多くは既に従業員に健康保険を提供しているので、これが全企業に義務付けられれば中小企業との競争上の不利がなくなるので、潜在的には賛成する要素があった。しかし、クリントン案が大企業自身にも新たな義務を課すことになることを恐れ、最終的には反対に回った。
・America Associaton of Retired Persons:退職者の団体。保障が厚くなるので、基本的には賛成。


保険会社と中小企業が反対することは織り込み済みだったし避けようがなかった。クリントン政権にとっての大誤算は、スキャンダルに足をすくわれたことと、大企業が反対に回ったことだろう。
スキャンダルは政権の支持率を低下させた。それは政府の関与を極度に嫌うアメリカという国にあって、政府が医療制度への関与を増やすことへの強い抵抗を生んだ。クリントンへの不信は、医療制度改革に対する懸念に直結したのである。

共和党は当初、クリントンの改革に反対して「抵抗勢力」とみなされることを恐れていたが、国民の支持が低下するにしたがって、気兼ねなく医療制度改革を攻撃できるようになった。大企業が反対したことも、それに拍車をかけた。

民主党は、結束してクリントンを支え、医療改革を実現していれば、94年の選挙であんなに大敗することもなかったのだと思うが、反対運動が広がる中で分断工作が進み、囚人のジレンマ的状況で多くの議員が保身に動いた結果、医療制度でもその後の選挙でも、最悪の結果を招いてしまった。

それにしても、アメリカの政治闘争はすさまじい。
議員一人ひとりが自分で投票を決めるので、「党の方針に従いました」という言い訳は通用しない。そこで様々な利益集団や議会内勢力が、各議員に対して「お前はどっちにつくんだ」と圧力をかける。つまりアメリカの議員は、法案ごとに様々な人に踏み絵を踏まされるのである。
また議員の独立性が高いので、民主党の議員の中からも、大統領案とは別に法案を出す者が出て来たりする(こんなことは日本ではあり得ない※)。複数の法案が出てくると審議が混乱し、支持が分裂して共倒れになるリスクが高まる。そこで大統領派は、別の法案を出したCooperという民主党議員の地元でこの議員のスキャンダル情報を流しまくって脅しをかける。同じ民主党の中で、こんな闘争が繰り広げられるのである。
アメリカは、特に内政に関しては、大胆に制度を変えられないような仕掛けが政治システムの中に組み込まれているのである。


※脳死臓器移植法案のような特殊な場合は別

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