2009/10/16

「無利子国債」は機能しない

「無利子国債」なるものに鳩山総理が興味を示していると、今日の新聞に載っていた。利子がつかない代わりに、非課税で相続できるというものらしい。

首相、無利子国債に関心? 学者らとの懇談、話題に

 鳩山由紀夫首相が14日、首相官邸で開いた学者や民間エコノミストとの懇談会で「無利子国債をどう思うか」などとたずねていたことが分かった。複数の出席者が明らかにした。無利子国債は利子をつけない代わりに、購入者の相続税を免除するしくみ。個人の国債購入を促して財源を調達できるという見方もあるが、資産家優遇との批判も根強く残る。
 懇談会には東大の伊藤元重教授やみずほ総合研究所の中島厚志氏ら6人が招かれた。昼食を取りながら経済成長戦略の必要性などを議論したが、首相はそのなかで無利子国債の効果などをたずねたという。ただ参加者の多くは「財政再建にはつながらない」と消極的で、議論は深まらなかったようだ。
Nikkei Net 2009.10.15



記事によれば参加者の多くが消極的だったとされる。私もこのアイディアには反対である。というか、こんなもの真面目な議論に値するとは到底思えないのだが、ウェブで調べてみると結構提唱者がいるらしい。当時海外にいたので知らなかったが、自民党政権末期にも、政府紙幣と並行して検討されていたそうである。
そこで、頭の整理のために、ちょっと検討してみた。

この無利子非課税国債、一体どこが問題なのかと言うと、、


①死ぬ間際の売買による節税が横行する

この国債をいつでも売買できるのであれば、死期が近づいてから購入し、相続と同時に売却することで相続税をバイパスする節税が横行するに決まっている。

突然の事故や心臓発作等の場合を除けば、死期はある程度の準備期間を持って予測できる。例えばある富豪がガンで余命3ヶ月と宣告されたとしよう。彼は即座に全財産をこの無利子国債に換えるだろう。金融資産だけでなく、土地も美術品もいったん全部売り払ってしまい、所有権だけ移転してから借り直すスキームを組み、相続後に買い戻す契約でも結んでおく。3ヶ月後に全財産を無利子国債の形で相続した家族は、若くて健康であれば、すぐさまこの国債を売り払うだろう(死期が近くないのに無利子の国債を持つのは不利だから)。そうやって合法的に相続税をゼロにできる。こんなバカな話があるだろうか。
(実際、1950年代にフランスで同種の国債が発行され、こうした行為が横行したらしい。)

市場での売買を制限すれば別だが、流動性が低くなれば価値が下がるから、それも難しいだろう。


②消化できる国債額は微少

この無利子国債は相続の瞬間のごく短期間だけ保有していればいいから、たいした額を消化できない。

まず、この国債を買う可能性があるのは一部の上流家庭だけである。日本で相続税の課税対象となるのはかなりの資産家に限られ、年間110万人の死亡者数の4.2%(4.6万人)に過ぎない(財務省HP)。低・中流家庭や機関投資家は、相続税を払う見込みがなく、免税のメリットを受けられないので、誰も無利子国債を買わない。利子付きの方がいいに決まっているからだ。

さて、日本のお金持ち世帯で相続されている課税対象資産は毎年約10兆円、税収は1.2兆円である(財務省HP)。
先ほどの例ように、全財産を国債に換えてからすぐに亡くなる、というのはさすがに極端なので、ここでは平均して資産の半分を死亡する3年前に国債に換えると仮定しよう。すると、制度導入当初は10兆円÷2×3=15兆円の国債の需要が生まれることになる。しかし、購入者が死亡して国債が子供に相続されれば、子供達はこれを直ちに売却する。その後の人たちは、こうして売りに出た国債を市場で買うことになる。つまり最初に発行した15兆円が次々に転売されてぐるぐる回ることになる。その後新しく国債を発行しようとしても市中に十分な供給があるから新発債に買い手はつかない。額面から割引いた価格で発行すれば話は別だが、それは「利払費を抑える」という目的を考えれば本末転倒である。またそもそも、新規需要15兆円の中には、既存国債を売って無利子国債に換える部分も含まれるだろうから、国債全体に対する需要の純増分はもっと小さい。

現在、日本の国債残高は680兆円ある。これからもっともっと増える。そのうちのたった15兆円(全体の2%)が無利子国債に変わったところで、利払い費はほとんど減らない。焼け石に水である。


もっとそもそも論を言えば、相続税を免税することで利払費を減らす、という発想自体に根本的な無理がある。
この無利子国債は、利子付きの普通の国債を買うよりも有利だと思った人しか買わない。つまり、本来受け取れるはずの利子の額よりも免税メリットの方が大きいと思った人のみが買うのである。ということは、国の側からすると、節約できる利払い費の額よりも、取り逃す相続税収額の方が必ず大きくなる。
もちろん個別のケースでは、どちらが大きくなるかは、保有者が死亡するタイミングによって影響を受けるので、不確実性がある。国債購入者がみんな必ず得するとは限らない。しかし①の余命3ヶ月の富豪の例のように、購入者が得すると確信して行うディールもかなり出てくるはずだから、トータルで政府が得することはどう転んでもあり得ない。


以上のような明らかな問題点があるにも関わらず、この無利子国債という代物がマジメに議論されているというのは一体どういうことなのだろうか。。。
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