2011/10/22

【読書】世論の曲解-なぜ自民党は大敗したのか 菅原琢




様々な世論調査のデータを駆使して、俗説を覆し、政治世論の動向の読み解き方を丁寧に解説した書である。


俗説1:「小泉改革路線が自民党を衰退させた」

2007年の参院選で安倍自民党が大敗した時、(一部の)メディアは「選挙結果は、小泉改革を継承する安倍路線への不信任であった」と総括する説を喧伝し、もともと小泉路線を苦々しく思っていた自民党の古参がそれに飛びついた。しかし著者は世論調査の分析を通じて、
①安倍政権期に自民党から離反した層は、小泉構造改革路線ではなく、郵政造反議員の復党や保守イデオロギー的政策(国民投票法や、防衛庁の省への昇格)を忌避したこと、
②自民党は農村での得票率をそれほど落としたわけではないこと、
③にもかかわらず参院1人区で大敗した最大の要因は、野党側の選挙協力が進んだ効果が大きいこと
等を論証する。

誤った総括をした自民党は、小泉以前の自民党への「逆コース」をたどる。野党が展開した「格差」キャンペーンに対し、小泉路線を中途半端に否定することで野党と同じ土俵に乗り、「国民に人気」の麻生太郎を総裁に選出した自民党は、2009年の衆院選で負けるべくして負け、政権を失うことになる。


俗説2:「麻生太郎は国民に人気」

この「麻生が国民的人気」という錯覚が、本書が追及する次の俗説であり、その論旨は、
①麻生が「次の首相」調査で上位にランクしたのは、総裁候補として報道され続け、アンケートの選択肢として登場し続けたからである
②「ネットで人気」というのは一部の熱狂的なファンによる目立つ書き込みを過剰に取り上げた誤解である、
という2点に集約される。様々な「次の首相」調査の聞き方と結果の違いから平均的な有権者の行動を炙り出す論理展開は見事である。

ただ、当時永田町で仕事をしていた私の記憶では、自民党が「国民的に人気な麻生なら選挙に勝てる」と楽観的に信じて麻生氏を担いだというよりは、他に選択肢が無い中でまさに藁にもすがる思いで麻生氏に賭けたという印象が強い。本書のようにデータを客観的に見ればそれが勝ち目の無い博打であったことはより明白だったかもしれないが、自民党が「麻生人気」を本気で信じ込むほど愚かだったというよりは、それではダメなことは薄々感じながらも抜本的に変われない体質により大きな問題があったように思う。


俗説3:「若者の右傾化」

やや補足的な位置づけだが、ネットに国粋主義的な書き込みが目立つようになった現象や、憲法改正賛成派が若者に多いとの調査結果を捉えて「若者が右傾化している」と結論付けるのは短絡的である、とも主張している。
①ネットで書き込みをするのは平均的な人ではなく、強い思想・主張を持ったごく一部の人である
②ネット人口は高齢化が進んでおり、ネットの書き込み=若者との仮定はもはや成り立たない
③「憲法9条」の改正に賛成する若者は実は多くない
④そもそも若者は政治思想が固まっておらず、「改正」などの語感に影響されたり、「分からない」とは回答せずに選択肢のどれかを選んだりするなどの傾向もあり、それらを考慮すると別の推論も成り立つ
などの根拠が、データとともに論証されている。


なお本書は、ある一定の結論に向けて議論を構築するという側面もあるが、それ以上に読者のデータリテラシーを高めることを目標としており、様々な角度からのデータ検証が大量に登場する。私は以前、世論調査の作成と分析を仕事にしていた期間があったので、当時の経験も時折思い起こしながら興味深く読んだが、結論にしか興味がない人にはやや冗長に感じられるかもしれない。

(続く)
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