2011/11/15

【読書】 ユーロ・リスク 白井さゆり




欧州債務危機をコンパクトにまとめた良書で、これ一冊読めばそれぞれの国の状況と問題国が危機に陥った経緯の概観を掴むことができる。

なかでもそのエッセンスは32頁に掲載された一枚のチャートに凝縮されている。「政府債務残高の対GDP比」と「(政府と民間を合わせた)純対外資産残高の対GDP比」とでユーロ採用国をプロットしたもので、この2つの指標から各国のリスクを分析している。

PIIGSと総称される国々の中で、イタリアのみ、高リスクではなく中リスク国に分類されている。
本書が出版された当時までで5年CDSを見ると、確かに、2000bpsに迫るギリシャ、700bpsを突破して更に上昇を続けるアイルランドとポルトガル、年初に一時350bpsを超えたスペインと比べても、150bps前後まで低下してきていたイタリアは相対的にはリスクが低いとみなせたかもしれない。その後、そのイタリアが危機の焦点になり、ベルルスコーニ首相が辞任に追い込まれたのは周知の通りである。

政府債務残高の対GDP比がギリシャに次ぐ120%に達するイタリアが「中リスク」とされた理由は、純対外資産残高のGDP比が低かったから、要するに外国への借金が少なかったからである。別に著者だけの見解ではなく、記述の様に市場もそう見ていたのだが、数ヶ月で風景は一変した。


日本の財政危機に関する議論においても、日本は純債権国で外国からは借金をしていないから大丈夫、という議論がしばしば見られる。確かに、外国から借金をしている状態に比べれば現状ははるかにマシであるが、それだけで安心するのは早計である。

「だから大丈夫」と言う人は、いざとなれば政府は国民にいくらでも課税できるという前提を置いている(意識していないかもしれないが)。しかし、民主主義国家における政府は、当り前のことだが、国民が拒否する政策は実現できない。歳出の半分の赤字を垂れ流している現状の財政が持続不可能なことは明白であり、財政破綻を回避するためには、いずれ社会保障の大幅なカットと大増税が必要になる。それが実現されるためには、その実行を訴える政権が国民を説得し、反対する政党を上回る支持を得て安定的な政権基盤を築けなければならない。政府が国民に全く信頼されておらず、長期に亘る経済の低成長に疲弊している日本において、それが如何に楽観的な前提であるかは、論ずるまでもないだろう。それが出来ないから、ギリシャもイタリアも苦労しているのだ。外国から借金をしていなくても、国民が政府に金を貸すのを止め、そして歳出カットも増税もできなければ、政府は破綻するほかないのである。


(参考)イタリアのCDS(5年USD)の推移
http://www.bloomberg.co.jp/apps/quote?T=jp09/quote.wm&ticker=CITLY1U5:IND


(追記)

通貨としてのユーロ崩壊の可能性が取り沙汰されているが、簡単には崩壊しないことを主張した箇所は、簡潔に的を射ているように思う。

まずギリシャ等の高リスク国が離脱して、安い通貨で経常収支を改善させる方向に進む可能性だが、そんなことをすれば既発国債はほとんどユーロ建てだから返済は一層困難になるし、国内から資金が流出して金融機関は軒並み破綻し、とんでもないことになる。だからギリシャが離脱するインセンティブは極めて低いし、そもそも仮に離脱してもユーロの信用力は上がるので、ユーロ崩壊につながるわけではない。

むしろドイツ等の低リスク国が、PIIGSを支援し続けることに疲れてマルクに回帰するという欲求にかられるシナリオの方が現実味があるし、もしそれが起これば高リスク国が寄せ集まった通貨ユーロの信認は地に落ちるだろう。しかし、それはユーロの暴落とマルクの急騰を意味するから、ドイツの輸出産業(その多くはユーロ圏向け)は大打撃を被り、ドイツは深刻な不況に陥るだろう。

結局、ユーロ離脱で得をする国はないので、ユーロは容易には崩壊しないであろう。
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