2011/11/13

【読書】 弱い日本の強い円 佐々木融




外資系証券会社の為替ストラテジストによる、分かりやすい為替の入門書。基本的に前提知識が無い人でも読めるように書かれている。為替相場は金融関係者の間でも「最も予想が難しい」「合理的な予想は不可能」などと言われたりするが、メカニズムを理解すれば一定の予測は可能であることを論証する。以下に主張を簡単にまとめておく。


まず、長期(10年以上)の為替水準にとって最も重要なのは、インフレ率である。「国力」のような曖昧な概念や人口動態は直接的には関係無い。


一方、中期(6ヶ月以上10年未満)的な為替動向にとって重要なのは異なる通貨間での資金移動の実需であり、①貿易、②証券投資、③直接投資がその内容である。

例えば、日本のように経常黒字の国には、外国への輸入や海外からの配当で獲得した外貨を売って自国通貨を買うニーズが常に存在するため、恒常的な通貨上昇圧力がかかる。

また、経済の先行き不透明感が高まり、多くの経済主体がリスク回避的になった場合、海外への投資を引き上げたり為替リスクをヘッジするために自国通貨を買う動きが出てくる。世界中がリスク回避的になり、みんなが外貨の為替リスクをヘッジするとき、世界最大の純債権国である日本にとっては、外国人による円売りよりも日本人による円買いの方が大きくなる。金融危機後に円が上昇した背景にはこのようなメカニズムが考えられる。震災直後に円が急騰したのも同じ理由だが、それを予測した投機が振幅を増幅させた可能性はある。

なお、為替取引の大部分はこうした投機的な取引が占めるので実需の影響は軽微であると言われることがあるが、機関投資家による為替投資のポジションは、長くても数ヶ月以内には反対売買をして手仕舞わなければならないため、6ヶ月以上の中期で見ると為替水準への影響はニュートラルである。


為替介入による円安誘導は不可能である。それは端的に言えば、市場が大きすぎるからである。大幅な円高が進行した局面で介入をしても、これまで外貨を売るに売れずにいた人々、今後も売る必要がある人々が、「しめた!」とばかりに飛びついてあっという間に吸収されてしまい、為替レートは元に戻ってしまうのだ。

そもそも、「米ドル/円レートが円高に振れると輸出企業の収益が圧迫され、日本経済に悪影響が出る」というのは過去の話である。日本は既にドル建ての輸入が輸出を上回っているので、円高で安く輸入できることのメリットの方が大きいかもしれない。アジアへの輸出が増えた一方、石油等の資源の輸入は相変わらずドル建てだからである。むしろ問題は、ウォンや元が安くて相対的な輸出競争力で日本が負けることなので、日本政府としてはドル/円レートを動かそうと為替介入するよりも、米国と協調して「市場介入はすべきでない」と韓国や中国に迫る方が国益に適う。

また、為替介入は危険なオペレーションでもある。為替介入は、短期国債を発行してドル(米国債)を買うオペレーションであり、ドルが円に対して大幅に値下がりしたため、特別会計に巨額のロスを抱えてしまった。この為替変化の底流にあるのは、日本の金利とインフレ率が米国よりも一貫して低かったことであり、その傾向が続けば今後もロスが出続ける(日米金利差で設けた分は一般会計に繰り入れて消費してしまっている)。他方、日米の金利とインフレ率が逆転すれば、円高は止まるかもしれないが、その時、為替特会は巨額の逆ざやに苦しむことになる。


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