2011/11/20

【読書】 「若者はかわいそう」論のウソ 海老原嗣生




巷に溢れる「若者はかわいそう」論には、不正確な思い込みに基づくものが多いことを指摘し、問題の真相を提示しようと試みた書。非常に多岐にわたる点を論じているが、基本的な見立てはp215にまとめてある。

<今起こっていること>
①円高 → 国内産業の衰退 → 国内製造業を中心とした不安定な非正規社員の増加
②三次産業の拡大 → 自営業の衰退 → 対人折衝業務・大組織での雇用拡大 → ひきこもりの増加
③ベビーブーム → 大学増加 → 少子化 → 大学進学率アップ施策(無試験化)→ 大学増設継続 → 大学生余り・大学生の学力低下 → 就職氷河期
④大卒比率アップ → 非ホワイトカラー職への志望者の減少、人手不足
⑤大卒比率アップ → ホワイトカラーでも中堅・中小企業は不人気で、人手不足は深刻化

<今後起きること>
⑥人口減少 → 国内消費の減少 → 内需産業の長期マイナス成長
⑦作りすぎた大学の破綻



個別にはあまりピンとこない主張もあるが、特に③の指摘は需要である。大学生が就職できなくなったのは、企業が採用を絞って雇用を非正規にシフトしたからだと思われがちだが、著者によれば企業は大卒新卒採用を減らしておらず、就職難の要因は少子化にも関わらず大学生を増やしすぎたことにある。
少子化にも関わらず大学生が増えたので、高卒で働きに出る人の数は激減した。にもかかわらず労働市場がそれなりにバランスしているのは、製造業における生産の海外シフトで高卒の受け皿だったブルーカラーの仕事が減ったからである。

本書は、世の論者の個別の主張にいちいちデータと共に反論するスタイルを取っているため、一冊読めば「若者かわいそう」論の代表的な論点を概観できるし、著者が加えている反論にもそれぞれ説得的なものが多いものの、論点が拡散していて結局何が言いたいのかやや分かりにくい。著者は「若者はかわいそう」論の多くを不正確であるとして否定するが、そこから「若者は十分恵まれていて全く『かわいそう』ではない」、と結論づけているのかは判然としない(それが本質的な論点とは捉えていないのかもしれないが)。

ただ、高齢者の世帯平均所得の中央値が240万円とのデータを引いて、問題は「高齢者貧困」であり、「圧倒的に優先順位が高いのが『高齢者問題』」などと断言するのはいただけない(そもそも本書は雇用問題にフォーカスしており、年金や医療の世代間移転、財政赤字の問題などは全く論じられていないのだが、それは置いておく)。

退職金をもらって貯金を蓄え、家のローンも払い終わった高齢者と、家賃やローンを払いながら家族を養い、税金や社会保険料もたくさん払い、更に老後の貯金もしなければならない現役世代とでは、生きていくために必要な所得の金額が全く異なる。
子供が独り立ちした後、ローンを払い終わった持ち家で暮らし、2,000万円の貯金を持つ高齢者の所得が240万円だったとして、それのいったいどこが「貧困問題」なのか。「悠々自適の年金暮らし」とでも言った方がしっくり来る(こういう高齢者が全てとは言わないが、平均的な姿はこんなものだろう)。高齢者の経済状態にとって決定的に重要なのは資産をどれだけ持っているかであって、所得など参考程度にしかならない。

所得のみを基準に貧困を計る(間違った)議論は世の中に沢山あるので、著者が並外れておかしな議論をしているわけではないが、あれだけエラそうにデータの誤用を指摘しまくっておきながら、こんないい加減な議論をするのはどうなんだろうか。

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