2012/11/03

【読書】More Money Than God: Hedge Funds and the Making of a New Elite - Sebastian Mallaby




謎に包まれたアメリカのヘッジファンドの盛衰を活写した画期的な本であり、読み物としても非常に面白い。

今回はその中でも最もドラマティックな興隆と衰亡を辿ったLTCM(Long-Term Capital Management)についてまとめておく。

LTCMはソロモン・ブラザーズの債権トレーディング部門を躍進させたジョン・メリウェザーが、ロバート・マートン、マイロン・ショールズという2人のノーベル賞経済学者を含むアカデミアを引き込んで1994年に立ち上げたヘッジファンドである。その特色は、市場の歪みに着目し、それが解消に向かう必然的な過程で確実に儲けるという戦略にあった。

そもそもヘッジファンドの由来は、ある商品を買うのと同時に、それと連動性の高い別の商品をショート(空売り)して、マーケットリスクをヘッジすることにある。例えばフォード株がGM株よりも伸びると思えば、フォードの株を買うと同時にGMの株をショートする。そうすることで、フォードもGMも値下がりするような市場全体のリスクからプロテクトしつつ、フォード株の値上がりによるリターンを狙っていくというのが、それまでのヘッジファンドの手法であった。

しかしこの戦略は、あくまでも「フォードがGMより相対的に値上がりする」という不確実な読みが当たることに依存している。逆にフォード株が値下がりしてGM株が上がれば、ダブルで損失を被ることになるというリスクを抱えている。

これに対してLTCMが取った手法は、より低リスクで確実にリターンを挙げるものだった。例えば理論的には同じであるはずの同一年限同一クーポンの国債の間でも、新発の国債は既発債よりも取引が活発で流動性が高いため、価格が高くなる傾向があった。しかしもともと同一の経済条件が付与されている以上、その差はいつか必ず解消されるはずである。LTCMは割高な債権をショートして割安な債権を買い、あとはじっと待ってその差が解消されたところで反対売買をして利鞘を稼ぐというシンプルな取引を繰り返すことで、確実にリターンを挙げた。
市場の歪みによる価格のギャップは、通常それほど大きなものにはならないので、それが解消することで得られるリターンも微々たるものだったが、LTCMはその戦略の理論的確実性(=低リスク)を背景に極限までレバレッジを高めることで、ファンドとして極めて高いリターンを挙げることができた。通常の市場環境下であれば。

しかし市場に暴風が吹き荒れた時、LTCMの戦略は瓦解することになる。例えばLTCMは、国債金利とスワップレートが長期的に一致に向かうというポジションを取っていた。通常の市場環境下であれば、国債も銀行間取引(スワップレート)も、短期のリスクはほとんどnegligibleなので大きな差がつくことはあり得ない。ところが1998年にタイを震源とするアジア金融危機が起こり、それが韓国やロシアにまで飛び火するに至って、市場は大パニックに陥り、最も安全な資産である国債は需要が集まって暴騰(金利は急落下)する一方、スワップレートは急上昇した。資本のバッファーが薄かったLCTMはたちまち窮地に陥った。

一度こうなると、死へのスパイラルは止められない。LTCMに資金を預けていた債権者や投資家は、潰れる前に我先に金を引き出そうと殺到する。LTCMは資金を返すためには手持ちの債券や株などを売ってキャッシュを作らなければならない。このLTCM自身の売り圧力が、保有資産の価格を下げて更に損失を発生させる。それを見た債権者・投資家は更に返金要求を強める。
その上、LTCMの窮状を見た市場のハイエナ達は、LTCMが保有する資産をショートし始めた。LTCMはいずれ保有資産の叩き売りに追い込まれる。そうなれば、保有銘柄の値段は確実に下がる。下がる前に今空売りしておいて、後で買い戻せば利鞘を稼げる。しかも空売りによってLTCM保有銘柄の価格を下げること自体が、LTCMを資産の叩き売りに追い詰めることになる。こうしてLTCMが持っているものは全て(その本源的価値に関わらず)売り浴びせられた。
LTCMに救済を頼まれたゴールドマンサックスは、デュー・ディリジェンスによってLTCMの保有銘柄を正確に把握したあと、救済はせずにこれらの銘柄を空売りして、LTCMに追い討ちをかけつつリターンを貪ったと疑われている。

結局LTCMは米欧の銀行団が数百億円ずつ資金を拠出して救済され、金融実務とアカデミアにおけるトップエリートの知恵の結晶は、わずか4年でその栄光の歴史に幕を下ろすことになるのである。


なお、LTCMの興亡については、それだけを扱った類書もあるので、そちらの方がより詳しく書かれていると思われる。

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