2013/02/14

【読書】 貿易黒字の誤解 - 日本経済のどこが問題か




もう20年近く前に書かれた本だが、特に冒頭の数章は今でも価値が高い。

多くの人(「エコノミスト」など、経済の専門家と言われる人々も含め)は、貿易赤字(ないし経常収支赤字)は問題で貿易黒字がよいことだと、直観的に思っている。どんどん生産して輸出して、海外から外貨を獲得すれば、貿易黒字が拡大し、そして国が豊かになる、という発想である。

こう考えるとき、人は無意識に前提を置いている。国内には生産能力が余っており、海外で日本製品に対する需要が増えれば生産を拡大して輸出を増やすことができる(この時国内の需要は一定である)、という前提である。こういう構造であれば、確かに貿易黒字の拡大で国は豊かになるだろう。

マクロ経済学の下記の恒等式に照らすと、

Y = C + I + G - IM + EX
* Y:GDP C:消費 I:投資 G:政府支出 IM:輸入 EX:輸出


EXが増えてYも増える、という構造である。

一方、GDPが増えなくても貿易黒字が増える状況は考えられる。国内の消費や投資が冷え込んで、作った物が国内で売れず、余った分が輸出に回るという構造である。上の式で考えると、CやIが急減して、Yは一定(あるいは微減)の時、EXが増えるという状況である。

言い換えれば、最初の考え方は、他の要素は一定として輸出が貿易黒字とGDPの大きさを決めると考える。後者の考えは、他の様々な要素の結果として、輸入と輸出の差額としての貿易黒字が決まると考える。どちらが正しいと言えるようなものではないのだが、GDPと貿易黒字の相対的な大きさを比較すると、GDPの方がはるかに大きいわけだから、後者の考え方の方がより実態に近かろう、というのが本書の立場である。

以上のような考察がとても分かりやすく整理されていることが、冒頭で書いた本書の「価値」である。


それにしても、経済学者が「ことはそう単純ではない」と長年指摘しているにもかかわらず、前者のような考え方が社会に根強いのはなぜだろう。おそらくそれは、そちらの方が普通の人の生活実感に合うからだろう。自分が働く企業で海外から大きな商売が取れれば、きっと生産を拡大して輸出を増やし、企業の売上も増えて自分のボーナスも増えるかもしれない。そのメカニズムを単純に国に敷衍すれば、前者のような考え方に行き着くのは自然な発想である。しかし個々の企業において成り立つメカニズムが、相互に複雑に依存する国の経済システムに成り立つとは限らない。これも合成の誤謬の一つなのだろう。

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